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事件


静かなjazzの音が流れる店でウエスターレンは1魔、

ウイスキーを飲んでいた。


イザマーレがリリエルと扉を消す時間が徐々に長くなり

暇を持て余し、時々飲みに来ていた。

かなり酔いも回ってきていたが構わず飲んでいた。


「…あら…1魔様ですか?珍しい…

情報局ウエスターレン長官様ですよね?」


声の掛かった方に顔を向ける。

にこやかに微笑む魔女が横に座っていた。

顔も体型もそこそこ良い女だった


「…………」


初めは警戒していたが

綺麗な肌の手でウエスターレンの手を重ね、

微笑みながら話す魔女にある幻影を抱いた

今まさに、イザマーレの腕に抱かれているあいつの…

微笑みが揺らめく…


朝日の光に気付いたウエスターレンは目を細め起き上がった。

頭がガンガン痛い…また酔いつぶれたらしい…。


しかし数秒もしないうちに気が付いた。

この部屋が屋敷では無いことを…それも一糸も纏ってない。


ふと気配を感じ、横を向くと見ず知らずの魔女が

同じく一糸も纏わない姿で横に寝ていた。



ウエスターレンは頭を抱えた…


夜、魔女と話していたのは覚えている…が、

後の事は余り記憶が無いことを…


『…やってしまった…俺としたことが…』


心で呟いても遅かったが、

ウエスターレンは直ぐにシャワーを浴びその場を後にした。


その後、魔女はウエスターレンに何度も会おうとしたが

ウエスターレンは無視を続けていた



 

数週間後、ウエスターレンの失態が

イザマーレ達の目に入ることになる。

スキャンダル雑誌の1面を飾ってしまったのだ…

あの魔女がスキャンダル雑誌に売ったのだ


「……」


魔界において、浮気や不倫は罪ではない。

むしろそれを大いに利用し、

謀略の限りを尽くすことを推奨される世界でもある。

ましてや魔女ごときとの宵越しの一夜など、日常茶飯事。


(ここ最近、屋敷にもあまり寄り付かないと思っていたが…)


普段、酒を飲んでも呑まれるタイプではないウエスターレン

だが最近、心の奥に渦巻く闇をどうにか抑え込もうとするあまり

自我をコントロールしきれなくなっているのを感じる


胸の痛みを隠し、寂しそうな表情を浮かべながらも

ウエスターレンに直接問いただすような真似は

できないイザマーレ


(…イザマーレ様…)


イザマーレの辛そうな様子に、心が抉られるリリエル




 

そして、イザマーレの悲痛な思いを

誰よりも深く知るウエスターレンは

自責の念から屋敷に帰らず、

守衛室で寝泊まりする日々が続いていた


ある日、学園内の見回りの時間に、守衛室に訪れたリリエル


「…どうした、リリエル?」

平静を装い、いつもと同じように話しかけるウエスターレン


リリエルはいつもの微笑みではなく、じっと見つめていた


「どうしてここに寝泊まりしてらっしゃるの?ウエスターレン様」


「…俺がどこで寝泊まりしようが、

お前には何の支障もないだろう?」


リリエルの視線から目をそらし、そっけない言葉をぶつけた瞬間

ウエスターレン自身の心が痛んだ


「……」

「…!……リリエル……」


何も言わないリリエルに、

振り返ったウエスターレンは動揺を隠せなかった


リリエルは声もあげず、ただ涙を流していた


「…っ、ば、馬鹿!何も、お前が泣くことないだろう!

これは俺の問題だ…」


思わず抱き寄せ、髪を撫でようとしたが

リリエルはウエスターレンを振り払い、睨み付けた


「この涙は…!あの方が流してらっしゃるのです!

お願いだから、イザマーレ様をこれ以上、孤独にさせないで!!

今すぐ、副理事長室へ行ってください!お願い……っ!!!」


泣きじゃくって怒り狂うリリエルに追い出され、

副理事長室へ向かうウエスターレン



 

副理事長室では、

見回りから中々戻らないリリエルを気にしながら

執務に集中していたイザマーレ。

だが、愛しい紅蓮の悪魔の気配に、手を止めずに声をかける


「…どうしたのだ?ウエスターレン。お前らしくないな」


相変わらず光眩いイザマーレに見とれながら、

俯き、涙を堪えるウエスターレン


「俺は、お前を傷つけた。誰よりも大事なお前を!

そんな自分が許せない。だから……っ…」


熱くなり自我を失いかけているウエスターレン


「…何を言っているのだ?吾輩は傷ついてなどない。

だが、そうお前が思うのなら、吾輩を抱きしめろ。今すぐに…」


イザマーレは立ち上がり、

ウエスターレンを引き寄せて口唇を重ねた


ウエスターレンもすぐさま

イザマーレを強く抱きしめ、肌を合わせた


副理事長室の扉は消されていたが、毎度の事なので

誰も気にしていなかった。


相手が校長ではなく守衛のウエスターレンだった事に…




 

守衛室でウエスターレンと向き合った後、

リリエルは学園を抜け出し、ある場所に向かっていた


「…えっと…たしかこの辺…」


迷子になりそうなのを、手にした雑誌で何度も確認し

ようやく見つけた


店の外から様子を伺っていると、中から女性が現れた


豊満な胸。髪を緩やかに巻き、

行き交う悪魔とも気さくに声を交わす。

店の前に立つリリエルにも微笑み、声をかけてきた


「ごめんなさいね。お店はまだなの。

でもそうね、良かったら、お茶でも如何?」


「ありがとうございます!

あの…私、実はこういうお店って初めてで…

前から入ってみたかったんです♪お邪魔してすみません…」


リリエルも微笑み、店内に入っていく




 

当たり障りのない会話を続けていると、

店の常連と思われる悪魔が来た


「よお!…あれ?今日は先客か。珍しいな。」


「はじめまして♪お邪魔してます」

リリエルは微笑んで、ペコリと頭を下げる


「この店は酒が旨いからな。だが、この魔女は怖いぞ?

うっかりすると足元見られるからな(笑)この前も、すっげー

高級そうな悪魔を手懐けてたもんな♪」


「…手懐ける?それは、素敵な時間だったでしょうね。」


男悪魔の話に耳を傾けていたリリエルは、

そっと呟いて微笑む


「え?いや~だ、ごめんなさいね。

初めての方の前で、こんな話。

とても熱く抱いてくださって、めくるめくひと時だったわ。

でも、その後、何も音沙汰ないから、情報誌に売りつけて

お金儲けまでさせてもらっちゃった♪」


魔女は調子に乗って、すべてを暴露し始める


「…そう。貴女は、何にも代え難い貴重な体験を、

いとも簡単に捨てたのね。一時の贅沢のために。」


「アハハ、確かにそうね。でも、いいのよ。

私なんかがマトモに相手にされるわけないんだし。

そのせいで、誰にも迷惑かけてないしね♪」


「……」


「…?お嬢さん?どうしたの?」


急に黙り込んだリリエルに、魔女は不思議そうに覗き込んだ

その瞬間、白目を剝き、倒れこむ。口から血を吐いていた


「……!!!」

見ていた男悪魔は驚いて立ち上がる




 

「…魔女さん。貴女の言う通りよ。貴女の存在など、

あの方たちの絆の前には、とるに足らないこと。

貴女は決して選ばれたわけでも、愛されたわけでもないわ。

でもね……」


リリエルはゆっくりと立ち上がり、静かに睨み返す


「誰にも迷惑をかけてない?何故そんな事が言えるのかしら。

あの方を悲しませるような事は、決して許しません。」


リリエルの視線に震え上がる男悪魔


「…たっ、たすけ……っ」


だがリリエルは、にっこり微笑み返す


「もちろんですよ♪貴方は、ただのお客様。そうですよね?

でも…ひとつだけお願いがあるの」


「…?」




 

数日後、魔界で出回る情報誌の表紙に、ある記事が掲載された


『副大魔王様、紅蓮の情報局長官とついに婚姻生活開始!』

『副大魔王様の背後を、固く護り抜く赤い長髪…』

『御妃様と3魔の蜜月の日々…噂の魔女は粛清されたか…』



「…リリエル様…」


屋敷で、ランソフとオルドが、リリエルに頭を下げた


「ありがとうございました。

私どもは、イザマーレ様のあのような表情を

決して見過ごすことはできません。

2名で店に押し掛けた時には、すでにあのような状況に…」


リリエルはにっこりと微笑み返す


「やだ、ランソフさんもオルド先生も。私は何も…

ただ、彼女の愛の真価を確かめたかったのです」



リリエルは事実、何もしていなかったのだ


ただ、店内に入ってからずっと、

自身の花の種を潰し、花粉を漂わせていた


彼女が、リリエルのお眼鏡に適う愛の持ち主なら、

自分の立場を譲ろうと思いながら……


だが、イザマーレを思うが故の怒りが

毒の粉に変化させたのだった




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