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原罪


ウエスターレンはベルデの屋敷に行った

「おや?珍しいじゃないの?いらっしゃい」

ベルデは嬉しそうに言って部屋に通した


「…研究室に行ったら屋敷に居るって聞いてな…」

ウエスターレンは煙草を吸いながら言った


「たまたまね~屋敷に戻ってたんだよ。で、どうしたの?」

ベルデは使用魔にお茶を頼みながら聞いた


「…イザマーレの事だ…」

煙を吐きながら言った


「喧嘩でもしたの?」

「違うわ!あいつ毎日の様にうなされている…俺のせいで…」

「…そう…」

ベルデはウエスターレンを見つめた


「ベルデ…どうしたらいい?…何度誓ったところで、

あいつのトラウマはなかなか取れない…」


「……簡単には取れないと思うよ…時間をかけて、

君がずっと傍に居てあげるしかない」

ベルデは微笑んで言った


「イザマーレが眠るまで傍にいてあげて。それが一番だと思うよ…」

「…そうか…分かった…」


ベルデは少し考えて話し始めた

「…ウエスターレン…イザマーレが何度も傷だらけになって、

命まで捨てようとしていたことを…知ってる?」


「……え?」

ウエスターレンは驚いてベルデを見た



 

「…君の魔力を確実に戻すために、

イザマーレが練り上げてきた計画だったんだよ。

今回お茶会で天使が襲撃したのも、

イザマーレ自身が天界に行き、依頼をして実行されたものだ。」


「!!!何だって!そんなことやったらダンケルが黙ってないだろ!」


「…いや、イザマーレが直接手を下していなくても、

いずれそうなっていた可能性は十分にあったんだ。

決してそんなことがあっては許されない。

でも、イザマーレの持つ強大な魔力の前には、僕もなす術がなくて…

断腸の思いで画策していたことがある。」


ベルデはそう言って、一冊のノートを差し出した。

「…それを見れば分かる通り、

あとはダンケルの承認を得るだけの状態だった。

そうだ、ウエスターレン。邪眼のコントロールも見極めたいから

これを読み解いてごらんよ。」


「!!!!」

ウエスターレンは邪眼を開き、一瞬で全てを把握した


「…やはり邪眼はとっくにコントロールできていたみたいだね。

…恐らくイザマーレは、君の魔力がすでに回復してることも分かっていた。

だからこそ、ウエスターレンが魔界に戻らない理由は

”自分がいる場所に戻りたくないからだ”と思ってしまったんだろうね。

それで、自分の命までかけて、君の事を救おうとしたんだ…」


ウエスターレンはベルデの言葉に絶句した


「イザマーレは不安だったんだ。君から寄せられる愛情が、

言霊によって操られたものでなかったか。

そしてイザマーレがウエスターレンを愛したことで

君の自由を奪ってしまっていたのではないかと…」

ベルデは微笑んで言った



 

「!!!!…ば、馬鹿野郎!そんなわけないだろう!俺は俺の意志で…」

ウエスターレンは動揺を隠すことが出来ない。


「…そう。たしかに君は言霊には操られない。

それどころか、君の意志で彼を守り続けた。

彼の身代わりで負傷したことも、数えきれない。

イザマーレのためなら、君自身が炎に巻かれ焼かれることも

ためらわなかったはずだ。でも……

同時にいつも不安を抱えていたよね。

邪眼は諸刃の剣だ。使えば使うほど

自我を失う恐怖に耐え続けなければならない。」


「…何が言いたい…」


ベルデの言葉を聞くまでもなく、

自らの行動によってイザマーレに与えた傷の深さに怒りが

抑えきれず、自我を失いそうなウエスターレン。


「…ウエスターレン?」

「…ベルデ、よく分かった。ありがとな…」

ベルデに目を合わせず、ウエスターレンはその場を立ち去った…






 





イザマーレの屋敷で、酒を仰ぎながら

荒れ狂う自らを必死に抑え込もうとするウエスターレン。

何度払おうとしても、邪眼で記憶した光景が勝手に再生される。

ベルデのノートに記してあった、もう一つの可能性…





 

「…イザマーレ。お前の首を貰いに来た」

ラミエルは剣を構えて言った


「…上等じゃねぇか…陛下には手をだすなよ?

目的は吾輩だろ。いいな?ラミエル。

陛下!ここは吾輩に任せ構成員と魔宮殿へ行ってください!

バサラ!セルダ!陛下を頼んだぞ!」


爆音と共に闘いが始まった

イザマーレとラミエルはお互いに傷だらけ息も上がる…

額から流れる血を気にせずに…


そろそろ潮時か…ラミエルにやられてもいいか…

ふと、そんな気持ちが沸いてきた。


「…ラミエル!来い!」

イザマーレは笑って言った。

ラミエルは感じ取った…剣を振り上げながらも泣いている


「…イザマーレ、覚悟…」

ラミエルは泣きじゃくりながら向かっていった。


イザマーレは剣を捨て、両手を広げ微笑んでラミエルを見た。


「…中途半端に刺すなよ…ラミエル」

イザマーレは呟いた…

ラミエルがイザマーレに剣を振りかざした時、

ラミエルとイザマーレの前に真っ赤な紅蓮の炎が地面から吹き出した


「!!!」

イザマーレとラミエルは炎から咄嗟に離れた

「…!」


イザマーレは振り返って固まった。

背後から炎を出し邪眼を開いたウエスターレンが立っていた




 

「バカ野郎!剣を捨てて死ぬ気か!イザマーレ!」

ウエスターレンは怒鳴って言った


「……ウエスターレン…」


「ウエスターレンとか言ってる場合か!…こんなに傷を作って…」

ウエスターレンは固まって立ち尽くしているイザマーレの傍に行った


「…間に合って良かった…心配させやがって…」

ウエスターレンは優しくイザマーレを抱きしめた

いつまでも…ずっと…

……


…これは、まだ都合が良い可能性だ。…

イザマーレを完全に失う可能性もあったのだ…

しかもそれが、あいつ自らの願いだったなんて…

イザマーレを失う恐怖に比べたら、自我を失う方がマシだ。

怒りが自身の中から湧き上がり、

自らの炎で己を焼きつくしたい衝動にかられる。


「…ウエスターレン?どうかしたのか?」


人間界から帰ってきたイザマーレに声をかけられ、ハッとする。


「…すまない、今帰ったところだ。遅くなったな」

「…お帰り…」


ウエスターレンは呟くように言って酒を飲む。

普段なら酒に強い悪魔だが、酒に呑まれてる状態だった。

空の瓶が2・3本、机に転がっている。


イザマーレは魔力を封じ込めサラサラの髪を一本に縛った

「飲み過ぎではないのか?」

「……」




 

「少し休め…身体に毒だぞ」

イザマーレはウエスターレンを強制的にベットに移動させる


「とりあえず寝ろ。そんな状態では何も出来んだろ?片づけておくから…」


イザマーレは椅子に座りウエスターレンを見つめた


「…俺は…お前に…酷い事をした…」


「何を言ってる?何もされてないぞ?」

イザマーレは優しく言ったが、

ウエスターレンはベットの中で、顔を手で押さえ泣いていた


「…ウエスターレン…?」


「最低だ…生きてる資格などない…

俺なんか…死んでしまえばいいんだ…」


「…やめろ、ウエスターレン…死ぬとか言うな…」


「……ダンケルに頼んで死ぬ!今すぐ呼んでこい!

来なかったら自ら紅蓮の炎で焼き付くすからぁ!」


イザマーレはため息をついた。酒のせいも有るのだろう…

今まで心の隅に溜め込んでいた思いが一気に溢れ出しているようだった。

昼間にベルデと会っていた事も読み取ってしまった…


ウエスターレンの横にイザマーレは添い寝をした


「…お前が死ぬのなら、吾輩も一緒だ。ウエスターレン。

だが、そう簡単にはいかないだろうな。

吾輩もお前も、そんなにヤワではないだろう?」

微笑んでウエスターレンの髪を撫でる


「…イザマーレ…俺は……お前に…」




 

「…ウエスターレン…もう何も言うな…」

優しく口唇を重ね、抱きしめる


「…少し休め。吾輩はここに居るから…自分を責めるな…」


一度口唇を離し、見つめるイザマーレの瞳に自分の姿を確認し、

ようやく落ち着きを取り戻したウエスターレン。


(…護られているのはむしろ、俺の方かもしれないな。…だが、今はまだ)

イザマーレを抱き寄せ、口唇を奪い返すウエスターレン。

「ん!んん……」

舌を絡め、口内を蹂躙し、愛し合う。


(泣き言は終わりだ。

せめてお前に認めてもらえるよう、最善を尽くすしかないな…)




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