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契約


あの日、最後の瞬間までイザマーレの髪に座り続け、

イザマーレとウエスターレンが結ばれるのを見届けたリリエル。

イザマーレの幸せを心から喜び、もうその場にいるべきではないと、

髪から離れていた。

(寂しさはあるけど…閣下が笑顔でいてくださるなら、それだけで十分だから…)


そう言い聞かせながら仕事をしているリリエルの前に、イザムが現れた。


「最後まで一緒だと言っていたのに、勝手に離れるとは何事だ?リリエル。」

「!…だ、だって…」


嬉しさと戸惑いのあまり、真っ白になるリリエルを抱きしめる。


「吾輩は欲張りなんだ。悪魔なものでな。お前の事も手放す気はない。

お前さえ良ければだが………リリエル。また吾輩の髪に座ってくれないか?」


イザムは微笑んでリリエルに問いかける。

リリエルは嬉しさのあまり、泣きはじめた…そして


あの幼き頃から見続けた夢。それからイザマーレと深い縁になるまで

何年も月日が経つのを思い出した


……

幼き少女は時々不思議な夢を見る…

人間であれば誰にでも訪れる夢だが、

その中でもリリエルは特別な縁を感じる夢を見続けていた。


いつも、行ったこともない教室にたくさんのお兄さんたちが集まっている。

そして、ひとりのお兄さんが教壇前に立っている。

教壇に立つお兄さんの横にはいつも、

椅子に座り見つめている、とっても美形のお兄さんもいた…


「………」




 

何かを言ったお兄さんの言葉に周りから笑いが起こる


「お前らさぁ~何回言ってるんだよ!もう聞き飽きたわ」

ゲラゲラと品のない笑い…

横に座ってるお兄さんは一瞬だけ眉を潜めたが表情は周りにはわからない

「ずっと続ければいいじゃん!」


まただ…

時々見る夢。リリエルは不思議に思っていた。

知らないお兄さん達…誰なんだろ…?

その夢を見た1日はモンモンと過ごしてしまう。

しかしモンモンと過ごすのも両親の前では出せない。


幼いリリエルは特に周りの友達みたいに自由に遊ぶ事もままならなかった。

門限や塾、習い事などに負われる毎日。ごくたまに自由に過ごせる日には

すぐにある場所に向かった


近所の家の前に立つリリエル。

玄関のインターホンを鳴らすと必ずおじいさんがしかめっ面で出てくるが

リリエルの顔を見るとすぐにこやかな顔になる


「お!いらっしゃい、リリちゃん」

ニコニコしながらおじいさんはドアを開けた


「こんにちは!お邪魔してもいいですか?」


リリエルが笑顔で言うと、中からおばあさんも出てきて、

笑顔で迎え入れてもらえるようになっていた。

おじいさんとおばあさんはジュースとお菓子を出して話を聞いてくれる。

リリエルは本当にこのおじいさんとおばあさんが大好きだった。


おじいさんにその日見た夢の話をした。

「いつもじゃないけど同じ夢をみるの…

だけどそのお兄さんが真剣に話しているのに周りは笑ったりしてるの…

私、何だか悲しくなってきちゃって…」



 

「そうかい…そのお兄さんはリリちゃんに聞いて貰いたかったのかもね」

「え?私に?」


「そうかもしれないよ?夢って不思議だからね…誰かの思いが伝わったのかも。

優しいリリちゃんに聞いて貰いたかったんだよ。

俺たちは頑張ってるから見ててねって、きっと伝えたかったんだよ」


優しく語りかけるおじいさん。リリエルは嬉しくなって頷いた


「うん!今度夢見たらお兄さんに頑張ってって応援する!」

目を輝かせるリリエル。


「お兄さん達に伝わるといいね」

おじいさんは微笑んで言った。


次のお休みの日

リリエルはいつものようにおじいさんの元へ遊びに行ったが、様子が違った。

おばあさんが出てきて

「リリちゃんごめんなさいね...おじいさん具合が悪いから会えないの」

と断られたのだ。


「う、うん…」


しょんぼりして家に帰りソファに寝そべって泣いていた。母親が心配して尋ねると

「おじいちゃんが…いなくなっちゃう…」と抱きついて泣き出した。

おじいさんが亡くなったのは、その数時間後だった。


母親は幼いリリエルに言って聞かせた。

「あのおじいさんは頑固で、偏屈で本当に厄介な人だったけど、

最後の最後にあなたが遊びに行ってあげたおかげで、

少しは優しい気持ちになれたんじゃないかしら」


リリエルにとってはそうではなかった。

最初から優しくて、大好きなおじいちゃんだから会いたかっただけ…



 

それからすぐの事


柔らかい陽射しの中、風に揺れる草花


タンポポ、シロツメクサ、ナズナ、レンゲ…


小さな花々に囲まれ、草の絨毯にしゃがみ込む

幼い子供-推定3歳


平和の象徴のような光景の中で、その子供は一人

不機嫌そうにふさぎこんでいた


「もうすぐ、おうちにもどりなさいっていわれる。でも…

いやなの。リリ、あのおうち、だいきらい…」


ひとり呟くその言葉を受け止めるのは、静かに咲いている草花だけ…


唯一、大好きだった近所のおじいさんも、どこかに行ってしまった


呟いた事でとりあえず気が済んで、シロツメクサを摘んで

花かんむりを作り出す


「リリエル~!!そろそろお家に入りなさい。

もうすぐピアノのお稽古でしょ!!」


「…」

予想通りではあるが、ぶぅ~っと頬をふくらませて

不満そうな顔を隠そうともしない


その時


パシャパシャ…


シャッター音が聞こえて、見上げた

逆光になってよく見えないが、学ランを来た男の人だった




 

その男の人に優しく抱っこされる


「…どうしたんだ?リリエル。またそんなところで泣いていたのか…?」


「イザムおにいちゃん…」

キョトンとした顔で、見つめ返すリリエル


リリエルが夢で見ていた男性が、目の前に姿を現したのだ


…………

……

柔らかい、ほのかな光に灯された特別な部屋の扉はすでに消えている


寝室で、一糸纏わぬ姿で肌を重ね合うイザマーレとリリエル


「イザマーレ閣下...お慕いしております。

リリエルは永遠に、イザマーレ様のお傍に…」

イザマーレに抱かれながら、微笑むリリエル。


「リリエル、お前には、いつまでも髪に座っていてもらわないとな」

イザマーレも優しく髪を撫で、笑顔で答えてくれる。


永遠に終わらない、花と光の悪魔の恋物語…



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