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結晶


ポンと肩を叩かれ、ダイヤは振り返る。

「すまない、待たせたな」

サラサラの長い金髪を一つに結び、眼鏡をかけたイザム。

「!いえいえいえ、とんでもない!今日はありがとうございます!

…あれ、リリエル様は?」


「イザム様と三名で、お食事しよう♪」と誘われて、

緊張しながら待っていたダイヤである。

「…ああ、何でかあいつ…」


「閣下。今日は私、御髪に座りません。

ダイヤ様と楽しくデートなさってくださいね♪」

「お前がそこまで言うなら構わないが…(正直、あんまり好みじゃ……)」

「んもう!閣下!ダイヤ様は素敵な女性なんですよ!

リリエルが保証しますから!」


「…今日は別件で急用ができたらしいな。吾輩と2名では不満か?」

「えっ、ええええええ(汗)、そ、そんな事はないです!」

「…じゃ、軽く何か食べて、吾輩の屋敷に遊びに来ないか?」

「!…はい……」


好き嫌いは多いようだが、気持ちの良い飲みっぷり。

さっぱりした性格も、言われてみれば悪くない。

食事しながら、こっそり観察しているイザム。

ダイヤは緊張のあまり、味も分からない状態だったのだが……


実は、仲良しのリリエルがイザムと食事している様子を見かけたことがある。

嬉しそうにしているリリエルと、にこやかに応じるイザム。

自分では絶対にそうはならないと、羨ましく思っていたのだ。


食事が終わり、イザムは魔界の屋敷にダイヤを連れて行った。

緊張はさらに高まるばかりだが、そこで見つけてしまったのだ。

リリエルがいつも使っているモバイルバッテリーを…



 

「……リリエル様は、よくここにいらしてるんですか?」

「ん?ああ、まあな」

悪魔の姿イザマーレに戻りながら、答える。


「羨ましいですけど、たしかに、リリエル様といる閣下は

とてもお優しそうに見えます。」

「……ふっ、あいつは吾輩によく似ているからな…」

「?」


「あいつだけだ。人間の中で、吾輩の言霊に操られないやつは」

「え!そうなんですか?」


「吾輩も悪魔だからな、手っ取り早く事に及ぼうと言霊を使うこともあるんだが」

「リリエル様には効いてないんですか?

…でも、リリエル様、閣下の事大好きですよね?」


「吾輩が使う言霊よりも強い愛情で返してくる。」

「…!」


「…人間の感覚的には”重い”みたいだぞ」

「へ?」


「他人の困っている姿を放っておけない。

自分の事を後回しにして周りのためだけに動く。

だが、人間は勝手だからな。与えられる恩恵は当たり前。

誰かが手を焼いてる事など見向きもしない。

それどころか、恩恵がなくなると不満を言うようになる」


「…はい。確かに。」


「そんな事の繰り返しで、人間を殊更信用できなくなったようだな。

極力、孤独を好み、他人との接触を避ける傾向にある」


「!」


自分と過ごす時のリリエルとあまりにかけ離れた実像にダイヤは驚く。



 

「そんなあいつが、めずらしくお前に心を開いて遊んでるようだな。

ダイヤ。吾輩からも礼を言うぞ。これからも、あいつの傍にいてやってくれな」


「!!もちろんです!私もリリエル様は大好きですから!」

そう断言するダイヤを、改めていい奴だと思ったイザマーレは

微笑んで髪を撫でる。そして優しく口唇を合わせる。そして、身体を重ねた…


何度も優しくキスをされ、イザマーレに抱かれたダイヤ。

自分の身に起きていることながら、未だに信じられない気持ちでいた。

まさか自分が…憧れ続けた悪魔と肌を合わせる日が来るなど、夢にも思っていなかった


ダイヤがイザマーレを最初に見たのはまだ中学生の頃。お昼のTV番組だった。

子どものころから病を繰り返し、入退院の日々。その日はたまたま家にいて、

何気なく見ていた番組のゲストに登場したのだ。

「はい、今日のお客様、イザマーレ!どうぞ~!!」

この国で最も有名な司会者に紹介されて、颯爽と現れたイザマーレ。

「!!……」

しばらくの間TVに釘付けになり、次の瞬間、中学生のダイヤは宣言していた。

「私、一生この方に付いていく!!」


それから今日の今日まで、イザマーレの事を思わない日はなかった。

でも……大病を克服したとはいえ、その影響で自分の中の「女性らしさ」を

封じ込めるようにして生きてきたダイヤは、どちらかというとボーイッシュな

サバサバした生き方を選んできたような気がする。

その自分が、短い髪を優しく撫でられ、身体を開くことになろうとは…。

抱かれていても、緊張がとれず、ぎこちないものになってしまった気がする

「/////////////」

恥ずかしかったけど、本当にいい思い出!!イザマーレにしてみれば

数多くいるファンの一人でしかなく、瞬時に忘れてしまう程度だとしても…



 

……

イザマーレは、ダイヤと短い時間を過ごした後、彼女を人間界に送り届け

魔界の屋敷に帰っていた。


「ウエスターレン、ただいま。リリエルを見なかったか?

屋敷で待っていると言っていたんだが…」


「ん?さて、見ていないな。お前今日は他の人間のところにいたんだろ?」

「リリエルの指示に従ったまでだ。それ相応の報酬をもらわねばな」


「リリエルがお前に?…へえ。よっぽど、その彼女の事が大事なんだな」

「…そう言われてもな…たしかに悪いやつではなかったが。」


その時、副大魔王執務室宛に伝令が届く。

「…陛下からのお呼び出しだ。行ってくる」

怒髪天にマントをなびかせ、魔力を開放させたイザマーレは

足早に魔宮殿に向かう。


「…陛下、お待たせいたしました」

「やあ、イザマーレ。待っていたよ。このごろ、人間界において、

人間女性の夢かなえてやろうキャンペーンをやってるそうじゃないか。」


「…はぁ、キャンペーンというほどのものではございませんが…」

「いや、ここから眺めているだけでも皆幸せそうだ。

我々を慕う者たちが笑顔になるのは、悪い気がしないな」

「……はい。そうですね」

イザマーレも表情を和らげて応える。


「つい先ほどの彼女だが、私はよく知っておる。お前は忘れているようだがな」

「!……左様でございますか」

「彼女がお前に入信したのは、もう一人の……お前といつも一緒にいる……」

「リリエルですか?」

「ああ、そうそう。彼女とそう変わらんのだぞ。」

「!では、相当長い間、我々を慕い続けているという事ですね」



 

「身体に手術痕があっただろ?昔から大病を抱えていてな。

何度か命の危機もあったのだ。

その度に、地獄の淵に彷徨っている彼女を叱りつけ、励まし続けてきたのだ」


「!……そうでしたか。存じ上げませんでした」


「フフフ。一番最初に、彼女の命を救ってほしいと頼みに来たのは

イザマーレ、お前だったのだよ」


「……え?」


「覚えていないのは無理もない。地球に潜伏し、

まだ悪魔に目覚める前の事だからな

お前もよく大怪我をして、入退院を繰り返していただろう?

その時に、やがて現れる人間の少女の未来を感じ取ったのだろう。」


「……」


戸惑うイザマーレだが、同時に

ダンケルとダイヤにも特別な絆があるように感じたのだった。


「そこで、イザマーレ。私もそのキャンペーンとやらに参加してみたいぞ♪

我々を慕う人間と同じ時間を過ごしてみたい。何か、考えてみてくれないか?」


「…畏まりました。すぐに、というわけにはいきませんが……」

戸惑いつつも、了承するイザマーレ。


……

ダイヤが目を覚ました時、魔界ではなく、自分の部屋にいた。


「あ、ダイヤ様おはよう♪」

リリエルが微笑みながら朝食を作っている。


「!リリエル様……ど、どうしよう!あのっ、あの……」



 

自分の身に起きたことを伝えたいような、言わない方がいいのか

寝起きで回らない頭で必死に考えるダイヤ。


「ふふふ♪ダイヤ様、閣下と素敵な時間を過ごせたみたいね♪」

「!/////////////」


「ダイヤ様の魅力を、どうにか閣下にも分かってほしくて

無理やりお願いしちゃったの♪……余計なお世話だった…かな?」


「そんな事ない!リリエル様……ありがとう(泣)」


自分の部屋で、いつものように眠るダイヤ。

彼女を静かに見守る2悪魔。


「長い間、慕い続けてくれるお前に感謝する。

お前に”必ずくる明日”と”いつもの日常”を約束しよう。」


「ダイヤよ、我々はお前をいつも見ているぞ。

いつかまた、祝杯をあげようじゃないか」


「…陛下。わざわざご足労いただき、

そして彼女の命を救ってくださり、ありがとうございました。」


「なに、構わんさ。久しぶりの人間界もいいものだな

イザマーレ、久しぶりに飲みに行かないか……」



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