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陰謀


イザマーレはリリエルが姿を現した途端に抱きしめた。


「!…どうなされたのですか?…閣下」

いつもと違うイザマーレに動揺が隠せない

「…このままで居てくれ」



結構長い時間抱きしめ、やっとイザマーレは離れた


「リリエル…確認したいことがある…コイツ知ってるか?」


昨日街角で捕まえた女の画像をリリエルの脳内に送った




 

「…クリス様?はい…よく知ってますよ?」

「…お前の友達か?…」

「えぇ…イザマーレ様がご活躍なさる現場に

いつもいらっしゃるので…そこで知り合ったんです。

彼女も閣下のファンですが…?」


リリエルの言葉にイザマーレは固まった。

ましてや吾輩を慕ってくれていた人間だったとは...


「…そうか…分かった」

「…閣下?」

「…リリエル…少しの間でいい。吾輩の髪に座らず、

呼ぶまで人間界へ戻ってくれないか?ベルデと大切な話がしたいのだ。」

「!おっ、お邪魔でしたよね。申し訳ありません…

閣下がそこまでおっしゃるのなら…」


リリエルは不思議に思ったが、

イザマーレの追い詰められている顔を見てしまったら嫌とも言えなかった。


リリエルを人間界に帰した後、

イザマーレはベルデのいる研究所へ足を運んだ。

相変わらず忙しそうにしている。


「やぁ!イザマーレ、いらっしゃい。」

ベルデは顔を上げイザマーレを見た


「忙しいのに悪いな…」

イザマーレの顔を見て何かを察知した。

「…ちょっと場所変えようか…」

ベルデは気を効かせ外に出た。


外に出ると心地よい風が吹きベルデは目を細めた


イザマーレは昨日の事を全て話した。

己を慕う人間にまで手を出し、息の根を止めてしまった事も…




 

ベルデは黙って話を聞いていた


「…ベルデ…あの女を助けてやってくれないか?

元の身体には戻したが時間が経ちすぎた…」


「構わないけど…イザマーレだって生き返らせる事くらい出来るよね…?」


「…出来なくもないが…

散々痛め付け殺めといて、吾輩が生き返らせても…

顔を見たくなかろう…」

イザマーレは顔を曇らせ下を向いた


「…それに…全ての課題を終わらせたい。

ベルデ、言霊を抑え込めば人間界の天変地異を止められると

前に言っていたよな?」


「…言ったね…」


「…それも全て終わらせる…」

イザマーレが顔を上げ言った。

「…だから昨日の女を助ける事は吾輩には出来ない。

もう…時間がないのだ…ベルデには頼み事ばかりですまないと思っている。」


「…分かった。その子は任せて。」


「…最後に…全ての事を終えたら…ウエスターレンを迎えに行って欲しい。

あいつが戻って来れば、陛下も安心されるであろう…」


ベルデはハッとした

「イザマーレ…君は何を考えている?」


「…それは聞くな…ベルデ…」

イザマーレは笑顔でベルデを抱きしめる

「色々世話になったな…ベルデ…

吾輩は、お前みたいに心がおおらかな悪魔になりたかった…」



 

天界は大騒ぎになっていた…

イザマーレがたった1魔で姿を現したのだ

天界の兵士が一斉にイザマーレを囲んだ。


「…物凄い殺気だな…我々と変わらないな…」

イザマーレは目を閉じて口角を上げた


「貴様!何しに来た!」


「…通せ。抹殺されたくなければな!」

イザマーレが目を開き、睨んだ時だった


「何事だ!何を騒いでる!」

かなりの大声が聞こえてきた。


どうやらコイツらのトップらしいが…聞き覚えのある声だった。

「いいから通せ!」


掻き分けてイザマーレの前に来たのは…

ウエスターレンのギターに潜んでた天使だった。


「…イザマーレ!?」

「ラミエル様!そいつは危険極まりない!お下がりを!」


「…ラミエルって言うのか…」

イザマーレは下を向いて笑っていた。


天使の兵士は苛立ちを隠せず騒いでる。


「…どうしたの?イザマーレ?」

唖然としながらラミエルは聞いた


「…お前なら話が分かりそうだな…。

ミカエルに会いに来た。話を通せ」




 

ミカエルと言う言葉に、更に兵士たちの怒濤が響いた

「…黙れ!静かにしないか!黙ってろ!バカどもが!」

ラミエルが一括し静かになった。


「…分かった。ミカエル様に話を通してみる。ついて来て…」

イザマーレは頷きラミエルについていった。


天界の宮殿は、ダンケルの根城である魔宮殿と同じように広い。

シャンデリアにステンドグラスか…

光に照されたステンドグラスが輝く部屋…イザマーレは何気に見回した。

ラミエルからミカエルに話を通してくるからと言われ、通された部屋だった。

陛下の護衛で何回か来た場所だった。


フカフカのソファーに座りイザマーレはため息を付いた…この風景も見納めか…


少し経った時ドアのノックが聞こえ、イザマーレは立ち上がり返事をした。

ゆっくりと扉が開かれ真っ白なヒマティオンを纏ったミカエルが姿を現した


「久しぶりだな。イザマーレ」

ミカエルは微笑んでイザマーレを見た


「…そうだな。前回の戦争以来か...」


「敵地にイザマーレ1魔で来たのか?ダンケルは来てないようだが?」


「…ミカエル…今日は1対1で話したいことがあってな…お前の所に来た。」

イザマーレは顔をあげ、ミカエルを見た。


「……話とは?」


「人間界で天変地異が起きている。お前も既に知っていると思うが…」


ミカエルは黙って目を閉じた




 

「吾輩が生きている限り、この先もずっと続くだろう。

更に人間の生け贄も増え続ける。

そんな状態を防げないもどかしさもお前にはあるだろう。」


「…何が言いたい?」


「ミカエル…天使を使って吾輩を襲撃させ、抹殺しろ」


「!…なに?イザマーレ!本気で言ってるのか?」


ミカエルの発言は天界のトップが言うことではないな…

そう思いつつ、イザマーレは続ける


「本気だ。天使の命は吾輩が保証する。

失敗しても吾輩が死ぬだけだ。

抹殺したそいつが英雄だ。悪い話ではなかろう?」

イザマーレはミカエルを真っ直ぐ見ている。


「…だからダンケルを連れて来なかったのか」

ミカエルは納得した顔をしていた


「…陛下の耳に入れるような事でもないからな。

陛下の手を汚す訳にはいかない。だから依頼したい。

襲撃の場所は吾輩の屋敷。陛下がお茶会を開く当日。日程は…」

イザマーレは日程と時間を伝えた。


「…分かった。そこまで言うのなら…」


「…頼んだぞ。抹殺する前に

吾輩もやらなければならない事もあるんでな。

襲撃とか早めるなよ?」


イザマーレは笑顔でミカエルを見た。

「……分かった約束しよう。」

ミカエルは約束した…




 

イザマーレが天界を去った後ミカエルは悩んでいた。

誰に襲撃の役目をさせるのかと…


「…ミカエル様…」

「あぁ、どうかしたのか?...ラミエル?」

泣きながらミカエルの前に立っていた


「…ミカエル様とイザマーレが話していた事を聞いてしまいました…」

「…」


「ミカエル様!イザマーレを襲撃する大役を私にやらせてもらえませんか!」


「…お前に出来るのか?…イザマーレの事好きなんだろう?遊びではないんだぞ?」


「…分かっています!だからです!例え死んでも悔いはありませぬ!

ミカエル様…お願いします…他の者にイザマーレを殺める事など出来ません!」


「……」


ミカエルはラミエルを見つめ抱きしめた

「気持ちは分かった…泣くな…ラミエルよ」

大泣きしているラミエルを慰めるように抱きしめた…


…………

ベルデはある報告をしにイザマーレの屋敷に行った

「あの子を何とか助けたよ。かなり難しかったけど...」


イザマーレはホッとした顔をみせた


「...本人はうっすら覚えてるみたい。

記憶消そうとしたけど何故か出来なくってね…僕の力不足かな…」

「…そうか…」

「明日には人間界へ戻せるとは思うよ」

ベルデは静かに伝えた。

そこから、抹殺されるまでに残された時間との勝負の始まりだった...。



 

…どうしてこんな事になってしまったのか…

クリスは悔やんでいた。

イザマーレに誘われた事で嬉しくなってついて行った事。


挙げ句の果てに生け贄にされ…死んだと思ったらベルデに助けられ…

何が何だか…


自分の軽率な行動で迷惑かけていることに後悔をしていた。

泣いても仕方ない事だと思っても情けなく泣けてくる。

布団の中に潜って声を出さないように泣いていた。


「クリス…ごめんな…謝ったところで許されるとは思ってもいないが…」


イザマーレの声が聞こえ布団の中から顔を出した

いつの間にか、イザマーレがベットに座っていた

横顔しか見えないが申し訳なさそうな表情だった。


「…記憶がまだ残っていたみたいだな。消す前に切り裂いてしまったからな…」


「……」

切り裂かれた時の記憶も鮮明に残っていて恐怖で震えがくる…。


「…このままあの事の記憶を残したまま還らせる訳にはいかない。

楽しい記憶ならまだしも…恐怖だけの記憶などいらないだろ?

今回は吾輩にも責任がある…強制的に消させて貰う。

これから先も楽しい記憶を残していけ…」


「…閣下…」


「ごめんな…慕ってくれていたのに…酷い事をしてしまって…

お前が目を覚ました時には全て忘れているようにするから…

いつかまた会う機会があったら…食事でもしような…楽しい記憶になるように…」


クリスの頭を撫で身体を光に包みこみ、言霊で操り人間界へ送り帰した


目を覚ました時、クリスは自宅のベットに寝ていた。

イザマーレと会った記憶もあやふやで、長い夢を見ていたようだった。



 

お茶会まであと数日になった。

イザマーレは構成員を屋敷に呼び、会食を開いた

この会食も最後か…

ふと思ったりするが酒も飲んでるので思い詰める事もなく

バサラとセルダと人間女性の話で盛り上がった


「いや~俺って、人間の子猫ちゃんにはモテモテだよね~」

バサラは自慢げに話す。

イザマーレも酒を吹き出しそうになりながら笑った

「肌が綺麗とかプリプリのお尻見せて~とかな…

見せてやれば良かったのに…」


「見せないのが良いんじゃん!妄想させて喜ばせる。さすが俺っ!

そして甘い言葉で子猫ちゃんたちはメロメロだよ!」

バサラも顔を赤くしている。相当飲んでるらしい


酔っぱらいの3魔

一方、ラァードルとベルデは

少し遠くの方で深刻な顔でひそひそ話していた


「…何だって?その話本当かい?」

ベルデはラァードルに聞き直した


「…うん…たまたま天界に用事で行った時にミカエルに呼ばれて…聞いた」


ラァードルは飲み物を一口飲んで、楽しそうにしているイザマーレを見つめる。

「…襲撃してこいって…それにお茶会って、もう数日後だぞ…」

ベルデもイザマーレを見つめ小さな声で言った


「…ミカエルにも止めさせるように言ったんだけど…

イザマーレと約束したから却下出来ないって…

吾輩…どうしたらわからなくって…でもミカエルから口止めされて…

それに話を聞いたのも昼間だし…」

ラァードルはオロオロしながら小さな声でベルデを見つめて言った



 

「…分かった。よく教えてくれたね」

ベルデはラァードルに優しく声をかけ、静かに部屋を後にした。

イザマーレに気づかれないように…


ベルデは魔宮殿へ行き、ラァードルから聞いた話をダンケルに伝えた。

ダンケルは殊更驚いた顔を見せた

「…イザマーレがミカエルに直談判しただと?…」

「そうみたい…お茶会の当日にイザマーレの屋敷に襲撃しにこいと…

襲撃する天使の命は保証するとまで言ったようだよ」

「…何故そこまで…」

ダンケルはため息をついて、王座から立ち上がり窓辺に行き外を見ていた。


ベルデは、イザマーレから言われた内容も伝えた

全て終わったらウエスターレンを迎えに行って欲しいと……。

ダンケルは何も言わず黙って聞いていた


「…ベルデ…頼みがある…」

ダンケルはある事をゼノンに伝えた。そして今後の事も…

「ダンケル…勘弁してくれ…始めの話は協力出来るけど…

後の話はこの魔界を混乱させる」

「…決めた事だ」

ダンケルは振り返り強く言った。

彼が言い始めたら止まらない…


ベルデも悩み始めた…ダンケルから目をそらし下を向いた




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