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春の嵐

ルーク参謀 御発生日記念作品

※当作品についてブログ、SNS等への転載は固くお断りします。


 

吹き荒れる強風に、木の葉は舞い上がり

朽ちた廃屋の屋根が吹き飛び、巻き込まれた小動物は

破片の餌食となる

 

 

穏やかな陽射しに、桜の花が爛漫と咲き誇った矢先

人間界では一転して春の嵐となり、花散らしの様相を呈している

 

同じ時候

 

遥か彼方の異次元―魔界では

もはや普通に歩く事も許されないほどの猛烈な竜巻が

ありとあらゆる物を吸い込んでいった

 

プエブロドラドの周辺に蠢く低級魔も

中央で要職に就く貴族魔でさえ

その渦に飲み込まれ、行方知れずのままだ

 

そんな中、王都ビターバレーを抜けて

高級住宅街ヒバリーヒルズに向かう、一台の馬車。

強靭な魔法陣で護衛され、何事もなく無事に目的地にたどり着く

 

邸宅の門扉は、すでにベルデの魔術により

厳重に結界が施されている

 

「…待ってたよ、こっち」

 

「ご苦労。」

 

手短に挨拶を交わし、ベルデの誘導に従い

奥に進んでいく

 

エナジーが蜷を巻き、猛烈な渦を描くその中心に

真っ黒な闇が待ち構えていた

 

(……)

 

数百年に一度

 

大魔王クラスのダンケルやイザマーレにも訪れた

悪魔の宿命

 

麗しき水の領主。イザマーレ族の誉れ高き最高魔

軍事局の参謀バサラも、その期間に突入したのだ

 

日頃は、大きな口をニカっと開けて

底抜けに明るい笑顔を振りまくバサラ

その奥に、ダンケルと同等と言えるほどの

深い闇があるのだ

 

「こいつを、悪魔らしからぬ、堕天使もどきと邪推する輩も

いるようだが」

 

「この姿を見れば、一目瞭然。彼の真髄は風。

その源は不安。逆に言うと、彼にはこの闇があるからこそ

天界からも弾かれた存在…だったね」

 

はるか昔の記憶を辿り、ベルデは懐かしそうに呟く

 

「そうだ。だからこそ、我々、最高魔軍に引き入れた。

バサラは正真正銘、生粋の悪魔だ」

 

腕を組み、睨み付ける視線の先

増大し過ぎた自らの不安に呪縛され、理性を失った戦友の元に

さらに近寄るイザマーレ

 

このままの姿を保持させれば、軍の力も飛躍的に上がる

邪推や噂も消えるだろうし、バサラ自身も、その力を

最大限に活用できるようになるだろう

 

 

だが…

 

「やはり吾輩は、笑顔のバサラが好きなのだ」

 

マントを翻し、怒髪天に光を充満させ、両手を広げる

 

「…おいで、バサラ」

 

闇の深淵で、膝を抱えて震える悪魔が

イザマーレの言霊に反応し、ぎょろっと睨み返す

 

「吾輩の胸では…ご不満かな?」

 

ふっと笑みを浮かべ、艶やかに待ち構えるイザマーレ

 

「…か…かっか…閣下…っ」

 

キラキラと眩しい光に惹かれ、徐々に理性を取り戻し

自分の名を呼ぶ、愛しい悪魔の元に駆け寄るバサラ…

 

エナジーが和らぎ、竜巻は雲散し、虹色に放物線を描きながら

飲み込まれていた悪魔達は各々のテリトリーへ放出されていく

 

「…大丈夫か?バサラ」

 

「…い、いや…その…」

 

イザマーレの胸に飛び込む寸前

あと一歩のところで、突如現れた魔法陣から飛び出してきた

ラァードルに、むぎゅっと押しつぶされている

 

「ぃよお!久しぶり♪」

 

「ようやくのご帰還か。これで全員、揃ったか?」

 

 

当然のようにイザマーレの前に立ちはだかるウエスターレンが

ラァードルの重みに喘ぐバサラを後目に紫煙を燻らせる

 

「ちょっと…!吸うならバルコニー!窓開けて💢」

 

そう言って窓を指さすバサラ

その窓を開けて、セルダが入ってきた

 

「おや…早いこと。全員お揃いなんだね」

 

「セルダ…あんたは何の用?」

 

最早、無の境地に達し、低い声で問いかけるバサラ

 

「俺は見ての通り、ハルミちゃんの散歩♪

久しぶりに青空だからね」

 

「…そうか。宙の歪みも戻せたようだな」

 

「うん。閣下のおかげ♪ありがとう~」

 

そう言ってイザマーレに抱きつくセルダ

 

「あ、ちょっと💢セルダ!ずるい、俺もーーー!!」

 

いまだ、ラァードルが馬乗り状態で、地団駄を踏むバサラ

 

「ラァードル、お腹空いたでしょ。」

 

そう言いながら、焼き立てのフィナンシェを取り出すベルデ

 

「おおう♪さすがベルデ♪美味しそう~」

 

ラァードルが退いて、ようやく身軽になったバサラ

だが、もうそこにイザマーレはいない

 

「バサラ。戻ったなら、こっちにおいで

いつものように、お茶会を始めるよ」

 

ベルデの誘いに、ため息をひとつ。

 

気を取り直し、バサラはようやく立ち上がり

彼らの元に向かう

 

どんな自分も変わらず受け入れ

信頼し合う、大切な宝の元へ…

 

 

 2024/4/12 

 

 

 

 

 

 

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