昼休み
- RICOH RICOH
- 2024年11月26日
- 読了時間: 6分
その日、Anyeは魔女部の校舎内にある喫茶スペースで
手に入れたサークル紹介のパンフレットを眺めていた
行き交う魔女たちの喧騒の中…
学内に通う魔女たちは皆、魔界の細かな情報を熟知しており
暇があればそこら中で井戸端会議に花を咲かせている
昨今、そんな彼女達の話題の中心にあるのが
週末に開催予定の舞踏会の事だ
自分にとっては無関係で、噂話にも興味が無いAnye
ただ、舞踏会ともなれば、その場に集う貴族魔たちの着飾った姿が
それは豪華で美しい事だろうと、ほんの少しだけ想像しながら
改めて手元のパンフレットを読み込む
(服飾デザイナーか…)
魔法を使い、衣装を作り出すことはAnyeの得意技だ
だがこれまでは、オシャレというよりも、
必要に迫られての応急的なものばかりだった
(……/////)
先日、生徒会室で、イザマーレに抱きしめられた時の事を思い返し
ほんのりと頬を赤くする
一緒にお出かけする時の衣服くらい…
せめて自分の手がけたもので、少しでも可愛いと思って貰えるように
デザインも工夫してみたい……
(……)
そこまで考えて、ため息をつく
相手は、眩い光のオーラを全身に纏う、最高魔だ。
夜ごと開催される舞踏会でも、あの光り輝く王子様のような姿で
美しく着飾った魔女たちから熱い視線を集めている事だろう…
(……ずるいな……)
ふぅっと息を吐き、パンフレットを裏返しにしてコーヒーを飲む
その時、近くに居た魔女が話しかけてきた
「ねえ、Anye。ドレスはもう決めたの?」
「え?」
「週末に行われる舞踏会よ。今回は大魔王主催ではなく、
水の領主バサラ様が、ごく親しい方々を招待なさると聞いているわ」
「Anyeはイザマーレ様と参加されるんでしょ?」
「…へっ…?」
Anyeの戸惑いを余所に、魔女同士で頷き合い、さも当然のように
話を続ける彼女たち
「あら…知らなかったの?さっき、掲示板にも貼り出されてたわよ。
魔女部代表として、Anyeに決定したって…」
「…!…」
昼休みに掲示板を見に行ったのだが、自分には無関係と思い込み
舞踏会に関する通達については素通りし、
手前に置かれていたサークル紹介のパンフレットを見つけ
手にしたところだったのだ
「え、でも…そんな事、ひと言も聞いてない…」
寝耳に水の事態に、呆然と固まるAnye
その時、手元のパンフレットを取り上げられ、驚いて振り返る
「!…あ」
「お!何だ。準備が良いな。早速、ドレス選びか…♪」
「ウエスターレン長か…」
呼びかけたAnyeの口をむぎゅっと塞ぎ、耳元で囁く
「学園内では役職はつけるな」
「///…ウエスターレン様…////」
「よろしい♪決定事項を通達するついでに、姫君を回収して来いとの
指令を受けたんだが。お前も既にその気なら、話が早いな。行くぞ」
「…えっ、違いますよ!!これはその…そんなつもりじゃなくて…💦」
慌てふためき、百面相を繰り広げるAnyeの耳元で囁くウエスターレン
(分かってる。俺様を誰だと思ってる…?)
(!!…///////)
ついに茹でタコのように真っ赤になるAnyeに笑いを堪える
「とにかく至急、生徒会室へ行ってこい。週末のデートの予定も含め
あいつに聞きたい事が山のようにあるだろ♪」
ハッとして、駆け出して行くAnye
ここまでのやり取りを、嬉々として眺めていた魔女たちは
突如現れた、紅蓮の悪魔ウエスターレンの登場に胸をときめかせ
またすぐに別の噂話で盛り上がり始める
黄色い声には全く興味がなく、我関せず立ち上がろうとした矢先
喫茶スペースの端で、興味津々に見つめている留学生たちに気がつき
ニヤッと笑みを浮かべるウエスターレン
乱雑にノックして、返事を待たずにドアを開ける
「失礼します…会長、あの…」
駆け込んだ勢いで話しかけた途端、視界に飛び込んできた姿
「あらら♪しばらく見ない間に、随分と綺麗になったね。
Anyeちゃん、元気だった?」
会長用デスクの前にあるソファーで、
文化局長ベルデの淹れたハーブティと
山盛りのクッキーを頬張りながら、飄々と笑いかけてくる
「ラァードル殿下!!いつ、魔界へお戻りに?」
「ついさっきだよ。久しぶりだね。あの事件以来か…」
奥のソファで優雅に寛ぐイザマーレも、
いつもより砕けた表情でAnyeを引き寄せる
「Anye、こっちにおいで。
ラァードルの歓迎パーティに、お前も参加させてやる。
主催はバサラだから、気負う事もないだろ?」
「!!…そういう事でしたか///」
真相が分かり、ホッとするAnyeの髪を撫で、耳元で囁くイザマーレ
(パーティの前日に、約束どおり連れて行ってやる。分かったな)
(//////)
恥ずかしそうに俯くAnye
「そういや、とーちゃんとかーちゃんにも話したんだよ。
Anyeちゃんの事。すんごく喜んでた。」
「そうか…いずれ、きちんと挨拶に伺わなければな。」
ラァードルの言葉に、新たな決意を灯すイザマーレ
「おい、イザマーレ。留学生たちの歓迎会もまだだろ。
この際、まとめて招待してやったらどうだ?俺が面倒みてやるよ」
颯爽と姿を現し、当然のようにイザマーレの隣に座るウエスターレン
「! あ、それ…素敵ですね♪」
ウエスターレンの提案に、ウキウキし始めるAnye
「そうだな。ウエスターレン、頼めるか?」
「任せておけ♪お前を護衛しがてら、まとめて保護してやるから」
イザマーレを抱き寄せ、至近距離で囁き、
美しい金髪を撫でるウエスターレン
思いがけないウエスターレンの行為に、
飲みかけたお茶にむせて咳き込むイザマーレ
(……♪)
イザマーレとウエスターレンの特別な関係について、
随分前から気づいていたAnyeは、心の底から楽し気に眺めていた
週末
校内にある図書コーナーに置かれたカタログの中から選び抜き
魔法で身支度を整えたAnye
イザマーレと一緒に馬車に乗り、出発した
北の大地に向けて……
そのわずか後方
質素な馬車に乗り合わせ、目立たぬように後をつけていく
中に居るのは……
「よ~し。フッフッフ……
この日に備え、キャッチーな話題を撒き散らしておいた。
まどろっこしいあいつらには、
これくらいの援護射撃が必要不可欠だからな(笑)」
「理栄校長先生……じゃなかった💦 Anye様…まだ
副大魔王妃にもならず、足踏みしているなんて……」
あまりの事に拳を握りしめるリリアの横で、ムーランも心配そうに頷く
「こんなんじゃ、私らの世界の副理事長に、私たちが叱られるわ💦」
引きつっているダイヤを見遣り、ニヤッと笑うウエスターレン
「そうだろ?だがついに、イザマーレも決めるかもしれないからな
見届けてやらないとな♪」
「それって……まさか、プロポー…」
鼻息荒く、言いかけたプルーニャの口を慌てて塞ぐスプネリア
「ついでに、明日の舞踏会に向けて、お前らも着飾りたいだろ?
気に入ったものがあれば、俺が買ってやるから遠慮するな」
「「「は~い!!!!」」」
太っ腹なウエスターレンの言葉に目を輝かせる留学生たち…
Comments