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父と子

穏やかなある夜 家族それぞれが寛いでいるひと時、シューゾウはセルダの部屋を訪ねた 「おとん。聞きたい事があるんだけど…」 「ん?シューゾウが俺に聞きたい事あるなんて珍しいじゃんね。どうした?」 「うん…今日プエブロドラドのレストランで長官にお逢いしたんだ。

その時におとんの昔の話を聞いて…」 「昔の話?」 「うん…おとんが人間界に行ったって話」 「あぁ!ウエスターレン怒っとった?(笑)」 「ううん。そうじゃなくて俺のまっすぐなところとか 性格的に不器用なところとかは、昔のおとんを見てるようだって。

それを聞いて、おとんにその時の気持ちを聞いてみたくなって…」 「なるほど(笑)確かに興味あるよな。 魔界を抜け出して人間界に行く奴なんて、そうそういないだろうし(笑)」


セルダは穏やかな笑みを浮かべギターを爪弾きながら答える

「おとんはどうして、悪魔や構成員としての地位を捨ててまで 人間界に行ったんだ?辛い思いするのわかってたはずなのに…」 「…シューゾウはリリエルちゃんが困ってる時、 そこに手を伸ばせば辛い事が待ってるとわかってたら、助けない?」 「そんな事ある訳ないだろ! リリエル様をお助け出来るなら、何だって受け止めるよ」 思わずムキになり、言葉を荒げるシューゾウに

セルダはニヤッと笑う


「それ!お前にとってのリリエルちゃんが、俺にとっては音楽だっただけ」 「なんか重みが違う気がするけど… でも、構成員として音楽もやれてただろ? …こんな言い方おとんには申し訳ないけど 周りに迷惑かけてまで、やらないといけない事だったのか?」 気を遣っているようで、心に抱いた疑念を聞かずにはいられない

息子の真っ直ぐな姿勢に、やや苦笑しながら 少しだけ遠くを見つめるセルダ 「んー…どう言えば良いんかな。 俺にとって音楽は息をするのと同じくらい大切なものだった。

構成員として音楽活動が出来ていたけど、 だんだんそれは俺が望む環境ではなくなっていってしまった。」 「………」 「俺が必要としている音楽ではなくなったし、そしてそこで奏でる音楽も 俺を必要としなくなった。その時俺は自分がどんどん消えていくように感じたんよ。

だから人間界に行った。どれだけ辛い事があったとしても、 俺が俺自身として生きていけると思ったから」 「おとん自身…」 初めて聞く話に言葉を失いながら、

そこには常に等身大で生きてきた父親の足跡を追いかけているようで、

じっと耳を傾け続けるシューゾウ 「そう。ここにいたら俺は俺に嘘をついて、

自分を削って生きていくことになると思った。 そんな俺がいたところで、皆にもっと迷惑をかけるだけやし、

俺が嫌だった」 「…じゃぁ、人間界に行った事、後悔した事ってある?」 「後悔はないな」 「…他に何かあるの?」


「うーん。もうちょっと計画立てて行けば良かったかなと思う時はあった(笑)

本当に何も考えず、気持ちひとつとギターだけを持って行ったから。 でも、その時は一分一秒が惜しかったから、考えてる時間なんてなかったな。 色んな壁に当たったけど、それはそれで「どうすれば攻略出来るのか」って 面白かったし。」 「………」 きっと、言葉以上に過酷な経験を味わいながらも、

くぐり抜けて今があるに違いない だがその事を、軽く受け流すように笑うセルダ シューゾウもふっと肩の力を抜いて、ため息をついた時だった 「地位や名誉をかなぐり捨ててでも 守り抜きたいと思える存在があるなら、躊躇っちゃいけないんだ。

たとえ、それがどんな無謀に思えることでも… だから後悔はなかったって事になるかな」 「!…おとん」 芯のある言葉と、強い視線に驚く 「俺なんか、まだ軽いもんだよ。その時に捨てた地位も大したことないし…

世の中には、もっと凄いことを平気でやり通す存在が側にいるんだからな」 「それって…」 「閣下だよ。シューゾウだってそれはわかるだろ」 「…うん」 愛してやまないリリエルと、イザマーレに纏わる話は

幼い頃から何度も、おかんから聞かされていた


「だから俺は戻ってこれた。 こんな俺でもまた何も言わず受け入れてくれた。 閣下には頭が上がらないし、閣下の為なら俺はどんな事でもすると誓った。 …こんな無鉄砲な父親、嫌か?」 「嫌な訳ないだろ!おとんの音楽に対する気持ちわかる気がするし

今は判事としてこの魔界を守って、俺とおかんを守ってくれてる。

尊敬する父親だよ!!!」 心の底から漲る思いで断言するシューゾウ 「なんかそんなん言われると照れくさいじゃんね」 「…俺やっぱりおとんとセッションしたかったな。

なんで不器用なとこ、おかんに似ちゃったのかな」 「それ、プルーニャに言うたらアカンよ」 「え?俺もう言っちゃった」 「え?……… 「え?こういうところも、おとんに似てるって長官に言われたよ」 「もう。なんよそれ(笑)ウエスターレンには勝てんね」 そんな父と息子の 2 魔語りを、壁越しに聞きながら 頷いたり、時には涙したり、最終的にはワナワナしながら

お茶を持っていくタイミングを計りかねているプルーニャ……





御挨拶


35++執念の大黒ミサの感動の渦の中、

里好の頭脳、紫花菜様が素敵な作品を書きおろしてくださいました。

まだまだ、厄介な疫病の猛威が予断を許さない状況ですが

各地で多くの夢と感動を与えてくださった聖飢魔Ⅱに改めて敬意を表します。

これまでの全シリーズを書いたのも、

必ずこの瞬間に立ち会えるようにと願ったからこそ………


35++の時間が終わっても、悪魔は永遠に不滅です!!


里好

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