top of page

理想郷


森型の飛行船がたどり着いたのは、雷神界だった。


扉を開けると、雷神帝一族と家臣が出迎えた


「皇太子様、おかえりなさいませ」

恭しくお辞儀をするのは、ラァードルの幼少期から

最も近くで従事している老家臣、シセンだ。


「シセン、久しぶりだね。

今回は魔界の友達と、最高魔軍の信者も一緒だから

よろしく頼んだよ。」


「承知しておりますよ。さ。長旅でお疲れでしょう。

さっそく宮殿でごゆっくりなさいませ。

入浴を済ませたら、父帝殿とお食事になりますから。」


シセンはにこやかに応じながら、ベルデやスプネリアたちを促す


Lily‘sの3名は初めての雷神界に目を輝かせている

初めて目にする世界にも関わらず

すでにどこかで体験していたような不思議な感覚に囚われる


そんな3名の様子に気がついたラァードルは微笑みかける


「実はさ、君たちが目にするのは初めてじゃないんだ。

もちろん実際に来たのは初めてだけどね。

サムちゃんがいつも言霊で見せてくれていたからね」


「…あっ、そうか!あの曲…」


ラァードルの言葉に、3人はようやく納得する。


「あれ?スプネリアちゃん?…なんか元気ないみたい。どうした?」


ここまで一言も発せず、青ざめた表情のスプネリアに

リリアが気がついて声をかける




 

「昨日は殿下と…だったよね?(≧∇≦)

緊張しちゃった??」

ニヤニヤしながら訊ねるプルーニャ。


「えっ…い、いや…あはは(^-^;////////」

プルーニャの言葉に、真っ赤になりながら戸惑うスプネリア


飛行船の中で、初めてラァードルに寄り添われた彼女

ラァードルの腕の中で眠り、

目覚めた時にたどり着いた場所が雷神界。


人間界で、幼馴染として出逢った頃の彼

最高魔軍の構成員として、飄々としながらも確固たる信念で

夢を見続けさせてくれる彼


そのどれにも当てはまらない、もう一つの顔

由緒正しい、雷神帝の皇太子としての姿


どう見ても、自分とは雲泥の差があり過ぎる

整理しきれない感情のせいで

今すぐにでも逃げ出したい気分になっていたのだ


宮殿で、旅のメンバー全員で雷神帝に謁見する。

ラァードルは、雷神帝の隣に座り、親子話に花を咲かせている


「息子よ。よく帰ってきたな。

魔界にいるお前の活躍はいつも見守っているぞ。

イザマーレ君も、ようやくお目当ての彼女と結ばれ

大魔王殿も正式に后を迎えたとか…?」


「そうなんだよ。ここ最近、魔界はおめでたい事が続いてるよね。

彼らの事を、これからも支えてあげたい。良いよね?」


そんな息子の言葉に、雷神帝は頼もしさを感じながら応える

「もちろんだとも。大魔王殿にもよろしく言っておいてくれ。」


雷神帝の力強い言葉に、ベルデも胸をなでおろす。




 

「ところで息子よ。お前もイザマーレ君のように、

そろそろ身を固めたいとは思わんか?」


「…はあ?」

思わぬ父の言葉に、固まるラァードル


「皇太子であるお前には、見合い話がワンサカ来ておる。

だが、お前の意向を聞かずに勝手に話を進めるような事は

私の趣味ではないんでね」


「そ、そうなんだ…(汗)ちなみに、俺の相手って

誰でもいいの?例えば…人間でも?」


「ああ~やっぱり、お目当ての相手はいるようだな?

人間相手か…雷神界で過ごすことは難しそうだな?」


「うん、だから、基本的には魔界にある

プエブロドラドに暮らすことになるけど…」


「『プエブロドラド』か…。イザマーレ君が認めた

人間どもが暮らすコミュニティなんだろ?

私もお邪魔することが出来ればいいんだがな。

もちろん、将来の相手は

お前が最も信頼し愛する相手であることが

望ましいのでな。構わんよ♪♪」


「ホント?!…実はさ、今回一緒に連れてきてるんだよ。

え~と…あれ?ベルデ、スプネリアは…?」


「なにぃ?早く言わんか!息子のお前の事を

よろしく頼まねばならんだろう!!」

雷神帝も一緒に辺りを見回す

Lily‘sも先ほどまで一緒にいたスプネリアが居ないので

不思議に思っていた


ベルデは、持参していた魔水晶でスプネリアを探す




 

「…(苦笑)」


スプネリアは、森型飛行船の小部屋に蹲り、丸くなって震えていた

あまりの展開すぎて、処理しきれなくなったらしい。


「ラァードル、それから雷神殿。

正式な嫁入りは、少し待ってあげてください。

女性には、それなりに心の準備というものが必要みたいなので…

雷神殿の『プエブロドラド』往来についても

僕だけでは判断できないし

一度魔界に戻ってから、正式に回答させてください」


「…なんだよ、スプネリアのやつ!だらしねーなー!」

ベルデの提案にブスっと膨れるラァードル


「ラァードル、魔界に戻ったら一刻も早く

スプネリアちゃんをリリエルちゃんの元へ行かせるといいよ♪♪」

ベルデはラァードルに微笑みかけた


「おお!リリエルちゃんね♪♪了解!!!」


「リリエル…?どこかで聞いたな?……!!!

まさか!!!!!!」


ベルデと息子のやり取りを見守っていた雷神帝は

何かを思いつき、驚く


ベルデとラァードルは揃って頷く


「そうか…イザマーレ君の……そうか……

ベルデ君。今回君たちが乗ってきたあの素敵な飛行船は

定員にまだ余裕はあるかね?」


「えっ」

思わぬことを聞く雷神帝に驚くベルデ


「マミィ!急ではあるが、私も一緒に魔界に行ってくるぞ!」

にこにこして妃に告げる雷神帝。




 

「あらあら、居ても立っても居られないご様子ね♪

止めても無駄でしょうから、どうぞ行ってらっしゃいませ。

ラァードル。元気な貴方の姿を見れて嬉しかったです。

魔界に戻ったら、魔鏡でもいいから、彼女のことを見せてね♪」


穏やかに微笑む雷帝妃は、どこかリリエルに似ていた。


「ありがとう、母さん。またね。」

ラァードルは笑顔で応えた


「雷神殿…ごめんなさい。

飛行船の中は、Lily‘sたちも一緒に乗せてるから

特殊な結界を張っているので……

これ以上は定員を増やせないかな……」


困ったように呟くベルデに、雷神帝は豪快に笑う


「グアッハッハッハッハ!ベルデ君。気にする事ないぞ。

それなら私はいつものように龍雲に乗って行くから。

ひょっとしたら私の方が先に到着するかもしれないな。

では、早速行こう♪♪」


「ラァードル様…爺はいつも、貴方様のご活躍を

嬉しく見守っておりますぞ。困ったことがあったら、いつでも

爺をお呼びくださいませ。」

シセンがにこやかに告げる


「うん。ありがとね、シセン。また魔界に遊びに来てよ」


気の早い、雷神帝の閃きで

雷神界滞在時間はほんの少しで

魔界までとんぼ返りすることになったベルデたち……


帰路につく飛行船の中で、Lily‘sの話題は

雷帝妃について……


「ねえねえ、やっぱり、ムーランちゃんも思ったよね?」

「うんうん、リリア様も、プルーニャ様も?」

「どえらい方のお妃様ってのは、みんな似るものなのかな…」




 

そんな会話を何となく聞いていたベルデとラァードル


「…ラァードル。ひょっとして御母上って…」


「実は、リリエルちゃんと同じ、百合の花の化身なんだよね…」


「!!!やっぱり…!

ま、まさか、『始まりの場所』でただ一輪、

イザマーレの言霊に負けず枯れなかったリリエルちゃん…

ラァードルの御母上とも関係があるんじゃ…」






閲覧数:0回0件のコメント

最新記事

すべて表示

契約の真相

やがて雷神界への旅を終え、イザマーレの屋敷に大集結した ラァードルたち。 少々押しが強過ぎたのか 恐れをなして震えているスプネリアをリリエルに預け、 どうにか心の扉を開けてほしいと祈る思いで待っていたラァードル それと同時に、リリエルの出生の秘密を知り、改めて感動していた...

進言

イザマーレたちがリリエル達との旅から戻り、 屋敷でビデオ鑑賞会を開いた時のこと 上映中のビデオは 泥酔いのリリエルが服を脱ぎ始め、 ダイヤが慌てて止めている場面になった 素知らぬ振りをしていたイザマーレが焦り始めた。 リリエルは全く覚えていなかったので、かなりの衝撃で...

トラウマ

イザマーレが、ラァードルとスプネリアの背負っていた孤独に気づき、 全面的に後押ししようと決意を固めたのは、それからすぐの事だった その日、スプネリアはたくさんの料理を作っていた ミサの練習に明け暮れ、 お腹を空かせて帰って来るラァードルのために...

Comments


bottom of page