事の真相
- RICOH RICOH
- 2024年11月4日
- 読了時間: 10分
35++記念 わっしょいⅤ
ツアー前半でちょっとしたアクシデントが…
発端は、ほんの些細な事だった
たった、2,3言の会話
それがこんなにも波紋を呼び、事件になるとは…
いや、そうなる前から分かっていたんだ
批判はごもっとも。
何しろ、それを言った張本悪魔の俺が
誰よりも激しく悔やんでいる事なんだ
だが、事の経緯はそんな単純なものではない
事象の一部だけが世の中に伝わり
尾ひれがついて大騒ぎになる頃には
いつも通りの光景に戻っていた
それだけは、弁明させてくれ
あれは…最高魔軍の地方公演の際
突然あいつからもらった電話だった
「せっかく同じ土地にいるんだから、久しぶりに飯でも…」
電話越しでも、聞き間違う事のない、魅惑の声
その途端、俺の脳裏には眩いオーラを惜しげもなく纏う
光の悪魔の姿がはっきりと浮かんでくる
「…ウエスターレン?」
自分の描いた妄想だけで、感極まり言葉を失っていた事に
名前を呼ばれ、初めて気がつく有様。
「あ、い、いや…」
紅蓮の悪魔。鋭い眼光。魔界一のイケメンギタリストなどなど…
自らの残してきた足跡につけられた称号に相反するほど
狼狽している自分
そして、改めて、今の自分の出で立ちを見返す
自身のソロツアーが始まり、同様
各地でライブ活動に勤しむ最中
心地よい疲労感と達成感と共に、ほんの少し羽を緩め
だらりと過ごしていた、たった今
まさか、あいつから連絡が来るとは思わずに…
「わ、悪い、イザマーレ。今日はすごく疲れていて…」
…!…
“すぐには行けない”と言おうとしたのだが、その前段階で
明らかにイザマーレの落胆する雰囲気が伝わる
「…あ、あのな…イザマーレ💦」
呼びかけた俺の声に、応じる事はなかった
その後の周囲の喧騒からして、すぐ傍に居たに違いない
バサラやセルダ、ラァードルたちが
競うようにイザマーレを取り囲み、
どこか手近な店に出向いて行ったようだった
(…ハア…まったく…いいの?そんなんで…)
ため息を付きながら、電話越しではなく
直接脳裏に送られた、ベルデからのテレパシー
良いわけがないだろう!!
紅蓮の赤を誇る俺が、真っ青になって慌てふためく姿が分からんか…っ
とるものもとりあえず、財布とスマホと後悔を胸に仕舞い込み
すぐさま彼らのオーラが漂う場所に駆けつけた
「あれー、ウエスターレンじゃん。どうしたの?」
「ウエスターレン長官!ご無沙汰しております」
「はぁはぁ…ラ、ラァードル…久しぶり。ヴィデオ収録日以来だな。
スプネリアも、変わりなく元気そうで良かった」
真っ先に気が付き、声をかけてきたラァードルとスプネリアに
息を切らしながら、とりあえず応える
その声に、その場にいた全員が俺を見る
だから…その…
構成員とそれ以上に鋭い眼差しを俺に向けるLily‘s達
針のむしろのような視線の中、目的の相手を探すが…
「長官。どなたかをお探しですか?」
バナトラが声をかけてきた
「なんだよ。ウエスターレン。今さら…閣下ならいないよ」
横にいるバサラが続ける
「俺たちに付き合って、最初の 2-3 口食べただけで
すぐにホテルに戻ったじゃんね」
セルダがその後を追って話す
あいつがいないと分かり俺はすぐに訊ねた
「どこのホテルだ?頼む、教えてくれ!」
しかし俺の頼みは
「…関係者以外、教えるわけないでしょ?
これ以上、閣下を傷付けるような奴、絶対に許さないよ」
というバサラの冷たい言葉に遮られた
「…誤解だ」
「誤解?何よそれ!せっかくウエスターレンが来やすいように
ソロライブでも誘ったのに断っといて。
俺、閣下の事も伝えたよね?!
それでも受け入れんかったんはウエスターレンじゃん!!」
「そうです。あの時嘘でも『時間が合えばな』くらい
言うてくれてはったら、みんな納得したんです。
それをバッサリ切り捨てて…関係ないかもしれませんけど
代官にあんな悲しそうな笑顔をさせて、長官は許せません」
普段以上に鋭い視線で睨み付けてくるセルダに、
同じように責めてくる、プルーニャ
それに続くようにLily‘s達の声が聞こえた
「ミサで長官のお話をされる時の閣下のお顔を
ご覧になった事がないから、
簡単に「誤解」だなんて仰る事ができるんです」
「けじめはわかりますけど、お食事くらいダメなんですか」
「長官のおっしゃる「けじめ」ってなんですか」
「長官は「覚悟」をもって、限定でも復活されたんじゃないんですか。
今の長官には覚悟の欠片も見えません」
「ご自分で矛盾されているの、おわかりですよね」
「閣下がどれほど心を痛められ、
それを見ているリリエル様がどれほど苦しんでいらっしゃるか、
長官ならおわかりになるはずなのに…」
次々に投げつけられる言葉に、ただ俯いていた
「…まぁまぁ。だけど、慌ててここに駆けつけてきたって事は
多少は自覚してるってことだよね?」
のんびりした体ではあるが、凄みのある表情で
小さな紙きれを手渡すベルデ
それを受け取ったのを確認した後、ベルデはこう告げてきた
「その代わり…条件があるんだ。
この先、ミサの MC でもネタとして使わせて貰うよ。
多分…怒るよね?リリエルちゃん…(笑)」
「…わかった。すまないな。ベルデ。それに…みんなも…本当にごめん」
殊勝に頭を下げ謝罪する
「ほんまに分かっとるん?俺もうフラれるん嫌じゃんね。」
「ほんまです。次に代官を困らせたら絶対嫌がらせしますからね!」
口を尖らせながら言い放つセルダとプルーニャに頷くしかない
「長官には長官のお気持ちがあるのは分かりますが、
それをご自分でだけ抱え込まれては、余計な誤解を生む事を
分かっていただけましたか」
「私達は長官の事も大切なんです」
「今夜はちゃんと閣下に謝ってくださいね」
「リリエル様からのお仕置きも甘んじて受けて下さい(笑)」
「分かった。ありがとな」
ホッとした顔で告げてくるLily‘s達にも礼を告げる
その様子を「やれやれ」とため息をつきながら見守る構成員達
「じゃぁ、さっさと閣下のところへ行ってください」
とバサラに背中を押されて、俺は店を出た
ベルデに手渡されたメモを頼りに
イザマーレが宿泊しているホテルへ向かう
周囲の人間に気づかれぬよう、魔力を使えないのがもどかしい
エレベーターのボタンを連打しながら
目的のフロアに辿り着くと、悪魔軍666師団のスタッフたちが
すぐに気づいて目配せする
「あ、ウエスターレン様…どうぞ、こちらに」
「先程、リリエル様をお呼びしましたので、
間もなくこちらに来られるかと思いますが…」
最高魔軍の人間界での活動で、禁欲生活を課している最中
滞在地のホテルにリリエルを呼び出す…
それだけでも、イザマーレの心に負わせたダメージの深さが窺い知れる
「…すまなかったな。お前たち、リリエルが来たらよろしく頼むな。
イザマーレの事は、俺に任せてくれ」
「…畏まりました」
心底ホッとしながら、リリエルが到着した時に備えて
少々、浮足立ち、エントランスに向かうミル
俺は、ミルに手渡されたルームキーを差し込み、部屋に入る
「…リリエルか?すまないな…」
物音に気付き、問いかけてくるイザマーレの声
部屋の奥に行くと、驚いた表情で身構える
「なっ…////」
狼狽えて固まるイザマーレに構わず、強く抱きしめるウエスターレン
イザマーレは身体を強張らせ、目も合わせようとしない
優しく撫でる髪は、いつもの綺麗な金髪ではなく
オレンジのショートヘアになっていた
俺のたった一言が、お前をここまで傷つけるとは…
「…イザマーレ…」
「…ウエスターレン…すまん…疲れている所、
わざわざ呼び出すような真似を…」
決して目を合わさず、視線を泳がせながら
俯きがちに呟くイザマーレ
「無理して来てくれたのか?すまなかった…せっかくなんだが
吾輩、急に食欲が湧かなくなってしまってな…」
こみ上げる熱い想いに抗えず、再び強く抱きしめる
「…どうしたのだ?お前らしくないな…吾輩、こんなザマだ。
それでも次のミサにはステージに立たねばならない。
それで仕方なく、リリエルを呼び出したんだが…」
「…ああ、間もなく来るだろ。侍従に聞いた」
「ちょうど良かった。お前、リリエルの相手をしてやってくれないか?
吾輩なら大丈夫だから…」
そう言って、ウエスターレンの腕の中から離れていくイザマーレ
この間、イザマーレがウエスターレンに対し、ひとつも心を開かず
その瞳の中に居場所を見出せず、焦燥感が増していくウエスターレン
「イザマーレ!!…お願いだ、俺の話を聞いてくれ…
俺から目を逸らさないでくれ…っ」
無理やり振り向かせ、ようやく見つめ合うイザマーレの瞳に
光の粒のような涙が浮かんでいる
「…ごめんな。お前を傷つけるつもりはなかったんだ。」
「////あ、いや…だから、その話はもう…吾輩がそんなに迷惑なら…
もう…誘ったりしない…から…」
言いながら、涙で言葉を詰まらせるイザマーレ
「だから! 迷惑なわけないだろ!
お前から連絡をもらって、すごく嬉しかった」
「……そんな建前など要らん。話は以上だ。」
言い訳がましいウエスターレンの言葉に、より心を凍らせ
かえって冷静になっていくイザマーレ
静かに笑みを浮かべ、距離を置く
「…すまない。少しの時間も惜しい。
次のミサまでに山積みの職務を捌かねばならぬのでな」
「イザマーレ…」
「…お互い、時間を作るのも難儀なほど忙しいというのも、
本来なら、喜ぶべきだよな。ウエスターレン…だが、どうやら吾輩は
まだ心まで亡くしてはいなかったようだ。お前の一言で
一喜一憂できる程度にはな」
「……」
「来てくれてありがとな。嬉しかった。」
書類に目を通しながら、淡々と話すイザマーレ
言葉の端々に、悲痛な叫びを感じ取りながら
だんだん苛立ち始めたウエスターレン
イザマーレの手元の書類を押さえつけ
じっくりと見つめ返すウエスターレン
「…おい。意地っ張りもいい加減にしろよ?
俺様が来たからには、仕事の前にまずは食事だ。そうだよな…?」
「(汗)…だ、だから…吾輩、食欲が…っ…////」
「俺様がお前に対し、建前など言うものか…
ただ、お前と同じだっただけだ。」
「?」
「お前の前で、カッコ悪い姿を晒したくない…それだけだ。
よ~く、覚えておくんだな…」
「…んっ…///////」
顎をクイッとさせ、口唇を重ねる
深く口づけ合い、力が抜けてきた頃合いを見計らって
そっと離す
「…ふっ これで多少は、食欲も回復できただろ?」
「///////」
真っ赤になって俯くイザマーレ
「さ。イザマーレ、出かけるぞ。」
「…は?今から…?」
有無を言わさず着替えさせるウエスターレン
「ホテルのルームサービスじゃ、味気ないだろ
せっかく姫君も呼んだんだ。一緒に食事しに行こう」
「…////」
躊躇いながらドアを開ける
「閣下♪」
侍従に連れてこられて待機していたリリエルが
ニコニコと微笑みながらイザマーレに抱きつく
そして、ウエスターレンをじーーーーっと見つめてくる
「長官♪このホテルのレストランなら、まだ営業してますよ。
閣下のお仕事のお手伝いなら、私がやっておきますので
ごゆっくりどうぞ♪(´∀`*)ウフフ…」
ウエスターレンの手からルームキーを奪い
部屋に入って鍵をかけるリリエル
追い出されたイザマーレとウエスターレンはほくそ笑みながら
ホテルを抜け出す。地元名産の料理屋で舌を唸らせ
ホテルの中にあるバーでほんの少し酒も嗜む
やがて、奪われたルームキーなど躊躇せず、魔力で部屋の中に入り込む
そんな2魔のやらかす事など分かり切っているリリエルは
副大魔王の職務の補佐を終えた状態で、姿を消していた
「…やれやれ。あいつとの禁欲解禁は、まだお預けか…」
残念そうにため息をつき、口を尖らせるイザマーレ
「そうだな…だが、今夜は感謝したい。
お前を心ゆくまで味わわせて貰う。イザマーレ、おいで…」
そのままキスをして、ベッドに押し倒す
極上の御馳走は、まだまだこれから……
🌷事の真相 Fin.🌷
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