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事件当日


……

大魔王陛下から、久しぶりにお茶会を開こうと誘われたのは数日前。

今日がその日なのだが、まだ少し時間がある。

どうしたものかと思案していると


「あ、……クリス様…」

吾輩の髪に腰掛けている女、リリエルが呟いた


あの時吾輩の手に落ちて、一度は瀕死の重傷を負ったが、

言霊で生き返らせた女が、食事をしているところだった。

ちょうどいい、吾輩も同席させてもらおう。


「!!かっ、かっ…(^-^;」

「一緒に食事をさせてもらうだけだ。安心しろ」

「はっはいいいいい!!もちろんです!!!!」




 

(あの時の記憶は消えているようだな。

申し訳なかった。吾輩にとって最後の晩餐をお前と過ごせて良かった。)


食事を終え、屋敷に戻ったイザマーレに、リリエルが尋ねる。

「閣下。彼女とのデートは如何でしたか?」

「うむ、久しぶりに美味い食事ができたな。」

「彼女もお幸せそうでした。

リリエルの我儘を聞き入れてくださって、ありがとうございます。

お約束通り、リリエルはこのまま、閣下のお傍に……」

「……ふっ、好きにするがいい」


そこへ、本日のお茶会のために設営を始めていたウエスターレンが声をかける。

「イザマーレ、今のうちにシャワー浴びてこい」

「・・ああ、分かった。今日はよろしく頼む」


ウエスターレンと言葉を交わしたのは、いつ以来だろう……

心が定まっていれば、これまでの苦悩などなくなり、

ただウエスターレンへの愛しさが溢れるのを感じる。

イザマーレはいつになく穏やかな心境になっていた。


またウエスターレンも、イザマーレと静かに会話することで、

これまでの緊張から解放されている自分を自覚していた。

イザマーレのいない世界では、

決して得ることのできなかった幸福感に充たされていた。


ダンケル、ウエスターレン、イザマーレ。

魔界の中枢を担う最高位の3悪魔が

一つのテーブルで静かな時を過ごしている。


優雅な香りを嗜み、夜空を見上げるイザマーレ。

(……さあ、いつでも来るがいい。逃げも隠れもしないぞ)


ウエスターレンは先ほどから、いや、常日頃から、

イザマーレの一挙手一投足に魅せられ続けている。



 

(……綺麗だ、イザマーレ。

光り輝くお前の姿を、どれだけ渇望していたことか。

なぜ、こんなにも愛しいお前から離れられるなどと、思い込んだのだろう。

お前はもう、俺の事は失望しているだろうが、

俺は、お前への想いを消すことはできない……)


優雅なお茶会が続くイザマーレの屋敷。

突如空間に亀裂が走り、天使が襲い掛かる。

(!!…なぜだ、軌道が反れたのか?

いかん、陛下をお守りせねば…!)


咄嗟のことで、ダンケルを庇ったが、

手に少々傷を負ったイザマーレ。

その傷を目にした瞬間、体の芯から怒りが沸き起こり、

邪眼を開放させ天使を焼き払おうとしたウエスターレン。

だが一寸早く、イザマーレ自ら呪を唱える。

さすがは岩をも眠らせる夢幻月詠。

一節歌い上げるだけで、身分の低い天使は消滅した。


(…ウエスターレン。

邪眼を解放するたびに、自我を失う恐怖と闘わなければならない

お前の事は分かっている。

吾輩のために、もうそんな必要はないだろう。

吾輩さえいなければ、すぐに戻れるのだろうから……)


イザマーレの身のこなし、魅惑の歌声、その素晴らしさにダンケルもご満悦だ。


だが・・・自分の警備など全く必要としないほどのイザマーレに、

複雑な思いを抱くウエスターレン。


(お前を護り抜く事、それだけは、誰にも譲れないことだ。

今でもその想いは変わらない。

だがお前は、もうそんなことさえ必要ないというのか……)



 

そこに、バサラとセルダがやって来る。

イザマーレが天使を消滅させる時、無意識にではあるがバサラには電波信号を

セルダにはその名を脳内で発声したらしい。

月詠師として進化し続けるイザマーレ。脳内で再生させただけで

実際に声に出さずとも同等の能力を発揮できるのだ。


「閣下、怪我したって?見せて!」

「ああ、バサラ。大丈夫だ、自分の歌声で自然治癒したぞ」

「閣下に何事もなくて、良かった。もうっ心配したよっ♬」

(…………っ)


「おや、セルダも来たのか」

ダンケルがもう一魔に気さくに声を掛ける。

「閣下が呼ぶ声が聞こえたじゃんね」


(!! いつの間に、そんな信頼関係が…)


「ウエスターレンがモタモタしとんなら、遠慮なく閣下もらうよ」


(セルダ、てめぇ…………っ)



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