top of page

奇蹟の種


プライベートルームの一角に、

イザマーレの大切な思い出を保管する、最も特別な空間がある

いつもは扉を消してあり、入る事すら出来ない


リリエルが裕子に誘われて、市場に買い物に出かけた少しの時間

イザマーレは久しぶりに扉を開け、ある箱を取り出した。


言霊で鍵をかけ、厳重に保管された宝箱だ


……


今から数十年前

リリエルが人間として生まれ変わったばかりの頃


イザマーレは近所に住む人間の体内に入り込み、

幼いリリエルを見守り続けていた

厳しい家庭環境のせいで、常に孤独だったリリエル


残念ながら、潜伏した人間の寿命に伴い

すぐに魔界に戻るハメになったイザマーレ。


その頃、重病に苦しみ、地獄の淵で彷徨うダイヤを

偶然発見し、救い出すことに成功した


リリエルを本格的に取り戻す決意を固め、過去に行く直前


もしも全てが上手くいかず、悲しい帰結となったとしても

2つの大切な魂が、道を踏み外さず、健やかに生きていけるよう

人間界のとある場所に、種を蒔いた


それはかつて、リリエルが百合の花だった頃

イザマーレの屋敷の中で産み落としていた、花の種だ




 

リリエルとダイヤ

共に孤独に苦しむ少女らに

友だちになれる相手を……



種を蒔いた場所は、リリエルの家と、ダイヤの家

ちょうど中間地点だった。


どちらかと言うと、より強く

友達付き合いを欲していたダイヤの願いが

一人の女の子に生まれ変わらせた……それが、裕子なのだ


……


そっと開いた宝箱の中を確認し、ほくそ笑むイザマーレ


イザマーレが悪魔年齢3歳の頃から、いつも一緒にいたリリ

屋敷の中で産み落とされた種は、一つだけではなかった


(…リリエルが言い出せば、いつでも蒔いてやるんだがな……)


その種を蒔けば、イザマーレとリリエルによく似た女が

生まれるに違いない


Lilyelに微かな嫉妬を抱いているリリエルが

百合の花を植えたがらない事を、イザマーレは知っていた


だが、図らずも

ダイヤの友人として、立派に成長した裕子が

魔界で暮らすようになってくれた


裕子の秘密を、いつか話してやれば

リリエルの笑顔が見れるに違いない


イザマーレは静かに微笑み、宝箱に再び鍵をかける……




閲覧数:0回0件のコメント

最新記事

すべて表示

惑い

その日の夜、いつものように、キッチンで夕食を用意するリリエル 「お待たせしました~今日はお刺身定食で~す」 「おっ、珍しいな。」 魔界では中々お目にかかれない献立に、ウエスターレンが喜ぶ 「裕子からの手土産か?」 さっそく日本酒を取り出して嗜み始めるイザマーレ...

裕子とダイヤ

魔宮殿では 相変わらずダイヤが、1魔自室にこもり続けていた ダンケルはプライベートルームで いつでも愛し合いたいと思っているが 意地っ張りのダイヤをどう料理するか、考えあぐねていた 「なっちゃん、ちょっといい?」 部屋の扉をノックして、裕子が声をかけた...

告白

「なんだって?裕子に渡したのか?歴史書を……」 情報局の仕事のついでに、文化局に訪れていたウエスターレンは ベルデの思いがけない言葉に驚く 「…ここ最近、リリエルちゃんの生い立ちや、エマ事件の事で 花の種についてかなり詳しく研究させてもらったからね。...

Comments


bottom of page