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愛の威力


監禁された小屋で、リリエルが歌い続けている

もはや、その場にいた天使の息の根がすべて奪われ

邪魔者が消え失せても、旋律は止まらない


小屋から逃げ出したものの、相変わらず

リリエルが心配で暴れ続けるダイヤを宥めながら

まだその近くで蠢いていたLily‘sの耳にも

彼女の紡ぐメロディが聞こえてくる


「…リリエル様……」

スプネリアが呟いて立ち上がる

その声に釣られて全員が振り向き、立ち尽くしていた


スプネリアは、溢れる涙を堪えることが出来なかった


ダイヤは、それでもリリエルの傍から離れがたく、

涙を流しながら虚空を睨み続ける



やがて、トランス状態に陥ったリリエルの歌声に

森の木々が、風が、海が、喜びに満ち溢れ出す

この世の全ての壁を薙ぎ払い、小動物たちの目にも力が宿る


人類皆平等などの美辞麗句を並べながら、

実は己の安寧しか考えない

排他主義の天界にそびえ立つ壁をも打ち砕いていく

次々に消滅していく天使に失望し、

自分だけはクリスタルの分厚い壁に守られ、

苛立ちを募らせていたゼウス

その壁をも打ち砕かれ、ついに纏い続けた仮面を剥がし

本来の醜い形相で恐怖に戦き始める


「…ほお。ついに奴の壁をも壊したか♪」

イザマーレは静かに見つめながら微笑む




 

「リリエルの無償の愛の力にかかれば、この程度は当然の帰結だ

紛い物で埋め尽くされた天界の虚構など、許される筈がない」

ウエスターレンも眺めながら、紫煙を燻らせる


「…終わりだな。天界の消滅も、時間の問題だろう。

それなら俺も、魔界に帰れる。願ったり叶ったりだな♪」

ミカエルも頷き、穏やかな表情を浮かべる


「……だが。それではつまらんだろう?世の中の軋轢も、齟齬も

多少は認めてやらなければな。」


イザマーレは怒髪天に力を漲らせ、マントを翻す

その隣にウエスターレンが並び立つ


「姫君のご機嫌伺いに行かなければな♪

仕方ない。俺様も付き合おう(笑)」


「素晴らしいモノを堪能させて貰った。

天界の奴らが何を怯えるのか分からんが、

君たちの意思を尊重するよ。

…という事は、この美しい旋律が聴けるのも後わずかだな?

ミカエル君!もちろん、録音しているだろうね!

後でマミィにも聞かせてやらないとな♪」


豪傑に笑い、ウィンクする雷神帝に頭を下げ、

立ち去るイザマーレとウエスターレン

「行くぞ!!」



「止めろ…あいつの歌を!今すぐっ……」


2魔が姿を消した直後、

恐怖におののく形相を浮かべたゼウスが駆けつけ騒ぎ始める


「ミカエル!!何をしている!!!命令に従わんか!!!!」



 

これまでリリエルの歌声に聞き惚れ、

雷神帝の傍で佇んでいた風神帝が

ゼウスのしわがれ声に苛立ち、振り返る


「うるせ~な~…ちっとは行儀よく音楽鑑賞も出来んのか?!

大人しく黙っていやがれ!!!」


その瞬間、豪風が駆け抜け、ゼウスの髪が吹き飛ばされる

それを見たミカエルは、目が点になる

そして、次の瞬間、腹を抱えて爆笑していた


「お前……カツラだったのかよ(笑)」


(イザマーレたち、残念だったな♪

こんな笑えるの、俺だけが味わうなんてな(笑)

お前らにまた借りが出来たな。仕方ない。

天界の立て直しは俺様に任せろ♪

…そして、リリエルちゃん。お手柔らかにね♪)



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