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種の覚醒


リリエルによる、渾身の調教が終わった


ダンケルの膝の上に座り、髪まで撫でられた事に

怒り心頭のイザマーレ


屋敷のプライベートルームでは、

光のお仕置きが繰り広げられていた


その頃、文化局では……

人間界に一時戻りするため、裕子が訪れていた


「そうか。もうそんな時間だったね。…昼間は大変だったでしょ?

ゆっくり羽を伸ばして来るといいよ」


ベルデは裕子に椅子に座らせ、ハーブ茶を淹れてやった


「魔宮殿の波動が、一時期とんでもないことになってたよ(笑)

でも、一番強かったのがリリエルちゃんのだから、心配ないと思ってね…

イザマーレたちのイライラに巻き込まれるのも面倒だし」


どこまでも穏やかに、ゆったりと構えているベルデに

昼間に目の当たりにした出来事を消化しきれずにいた裕子も

落ち着きを取り戻す


「…怖かったでしょ?リリエルちゃん。でもね、あのくらいは

彼女にとっては、多分、とるに足らない事なんだ。

イザマーレたち、怒ってたけど我慢してたでしょ?

もっとリリエルちゃんを怒らせていたら、たぶん魔宮殿ごと

吹っ飛ばされてたと思うよ……(苦笑)」


やれやれ…とため息をつきながら、のんびりと呟くベルデ


「リリエル様って、綺麗で可愛いだけでなく、

とても強い方ですよね。いろんな一面を知る度に、

凄いなって、尊敬しちゃいます」


裕子も頷いて、率直な感想を呟く




 

「でも……ひとつだけ気になってしまって……

あの時、陛下にリリエル様が話していた事……和尚もやはり

ご存知なのですか?」


(…私は何度も命を奪われ、身体さえ失い続け

何とか生まれ変わっただけの、とるに足らない存在ですわね…)


昼間のリリエルの台詞を思い返していた裕子を見て、

察したベルデ


「…魔界に足を踏み入れた以上、

そしてダイヤちゃんの専属使用人として王宮で暮らしていく以上、

知らないことは許されないかもね。

これは…参考書。」


そう言いながら、ベルデは魔術で魔界図書館にある蔵書を取り出した



「僕からの宿題。次に魔界に来る時までに、読んでおくといいよ。」




 

……


人間界に戻った裕子は、ベルデに渡された蔵書を

繰り返し、読み続けた


魔界で起きた、一つの悲しい事件

それにより引き裂かれた、ある夫婦の物語

そして…光の信念と、花の魔法が引き起こした愛の奇蹟……


リリエルに寄り添う時の、イザマーレの優しい眼差し

どんな時も微笑みを絶やさないリリエルの強さ

それを固く守り続ける紅蓮の悪魔……


壮大な物語に感動し、涙を流しながら何度も読み続けているうち

裕子の中の、封印されていた記憶が芽を覚ます


(どうして…?…私……幼い頃のリリエル様を知っている……?)




いつも不思議な感覚に囚われていた

イザマーレの屋敷に訪れるたび、心の底から落ち着き、

そんなはずないのに、懐かしい思いがして……





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