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すれ違いさえ


翌日、約束の時間を少し過ぎて

部屋から出てくるリリエルを

車に乗せ、不機嫌なフリをして睨む。


「…遅かったな。旦那の事も愛してやったのか?」


つい、そんな事を言ってしまう吾輩に

困った顔で俯くリリエル

泣き出す前に抱き寄せ、キスをする


「すまない。いつも上手く言えないな……

楽しく過ごそう。リリエル、悪かった……」


……思えばこんな、他愛もない喧嘩を

する時間さえ、なかったんだな……


こんなことすら、嬉しく思う

吾輩の気持ちが分かるか?




 

涙を流すリリエルの髪を撫で、抱きしめる

「…閣下…ごめんなさ……」

お前は何も悪くない。謝る必要なんかない

口唇を塞ぎ、そのまま愛し合う



時にはリリエルの部屋へ忍び込み

旦那の身体を乗っ取って

リリエルに寄り添う事もあった。


寝ぼけ眼で見つめ返し、呟くリリエル

「……かっか……?夢と同じ……本物みたい……

だいすき……」


そんなリリエルの寝顔に、何度も癒される

もう一度、目を覚まして、吾輩を見ろ。

抱きしめてやるから……




 

…………


「もう、そろそろ時間だな。また必ず会いに来るから……」

リリエルと過ごせる一週間など、いつもあっという間だ

翌日には魔界に戻らなければならない最終日

さすがに寂しいのか、拗ねて、車から飛び降りる

エンジン音に振り返り、泣き出すリリエル



安心しろ。お前が寂しいと思うその気持ちは

吾輩も同じだから……


そろそろ、繋いだ手を離さなければならない時間……

もう一度抱きしめ、口唇を重ね合わせる




 

そっと見つめ合う瞳から零れ落ちる涙をキスで受け止める


「…さあ、前を向き、お前の生活に戻れ」

「…イザマーレ様…っ…」


泣いて震えるリリエルを抱きしめ、優しく髪を撫でるイザマーレ


「リリエル、もう泣くな。会えない間も、心配しなくて良い

いつでもお前を待っているから…

吾輩も、お前の涙に約束する。

空を仰ぎ見るたび、お前を思い浮かべる。

魔界も人間界も、見上げる空だけは同じだからな。

お前はいつでも、どこにいても

そのままの笑顔でいろ。分かったな?」



だが、泣き濡れた顔で見つめられたら我慢しきれずに、

ついリリエル自身の時間を止めて愛し合う事も…



その事が、リリエルの寿命を縮めた…まあ、仕方あるまい。




 

夫婦というにはあまりにも短い

リリエルとの時間を終え、魔界に戻る。


堪えきれない思いが、涙に変わる


そんな吾輩を、ウエスターレンが支えてくれた


「リリエルの前では、泣くのを我慢したんだな?

いい子だ……おいで、イザマーレ……」

「…レン……」


抱きつき、泣き出すイザマーレ

イザマーレの気持ちが痛いほど分かるウエスターレンは

その綺麗な髪を撫で、口づけを交わす


「俺の前で、我慢する必要はない。

たっぷり愛してやるから…」

そのまま愛し合い、ウエスターレンの腕に包まれて

ようやく眠れるのだ


リリエルと過ごした後のイザマーレは、いつもこんな状態で

精神的にもかなり追い詰められていた


リリエルとの時間が愛おしければ愛おしいほど

別れの瞬間は辛いのだ


魔界一の激務で有名な副大魔王として、常に自分を律し

律儀にダンケルに忠誠を誓い続けるお前が

唯一、本音を零せる相手は、俺しかいないのだから


魔界の屋敷で、ウエスターレンと過ごす時間は

イザマーレが心の檻を洗い流し、再び強く立ち上がるために、

欠かすことのできないものだった


そんな事とは知らず、

リリエルとの時間が終わったことに喜び、

イザマーレのいる寝室の扉の前で

わざと話しかけ、怒らせようとするダイヤ


見え透いた魂胆に気づいたウエスターレンは

ダンケルの元に飛ばしてやった




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