人間界の屋敷に戻り、笑顔で見つめるリリエルを抱きしめる。
「ただいま、リリエル。待たせたな………」
「お帰りなさいませ、閣下。お勤めご苦労様です………」
リリエルもにこやかに見つめ返す。
「シャワーを浴びてくる。…今日はこの後、どこかに出かけるか?」
「嬉しい♪…でも閣下、お疲れでは…?」
「別に構わないよ。じゃあ、少し待ってろ…」
シャワールームでリフレッシュしながら、イザムの姿に変身する
リビングに向かうと、リリエルがご機嫌な様子で
湯冷めのお茶を用意していた
「ありがとう…いただくよ」
「じゃ、私もすぐ支度を…」
微笑むリリエルを抱き寄せ、口唇を重ねる
舌を絡ませ、深めのキスをすると、
リリエルの深層心理に合わせたコーディネートが完成する
「…あの川原に行きたいのか?」
「///はい…実家の様子が気になって…良いですか…?」
「もちろんだ。じゃ、早速行くか。」
屋敷から数分のところに、大きな川がある。
その川を挟んだ反対側に、リリエルの生家があったのだ
夏になれば、大きな花火が上がる。
生家の近所には、かつて吾輩が入り込んだ人間の住居もある
恋人のように装い、何度もデートした場所だ
そんな思い出の場所が、数年前の台風の影響で川が氾濫し
リリエルの生家ともども、水流に呑み込まれた
締め付けが強く、厳しく育てた両親ではあるが、
キッチンやピアノ、居間にあったソファー、掛け軸…
全ての思い出が、災害ゴミとなり
堤防前に土嚢がわりに積み上げられていた光景に
必死に涙を堪えていたリリエル。
「…あの時は、屋敷も多少影響を受けたんだよな。
お前も、よく頑張って親を支えてやったな」
「正直、あの家に何の思い入れも抱けない…
失くして困る思い出などひとつもないと思っていました。
でも、そこには確かに、生活があったんですよね。
奪われてからでないと気づけないほど
静かに根付いていたものが…」
うっすら涙を浮かべるリリエル。
「でも、なんとか命だけは助かり、家の建て直しも終わりました。
川もきれいになり、皆もなんとか懸命に生きています。
あの時は、閣下の歌声に何度も励まされました。
ありがとうございます…」
そんなリリエルを抱き寄せ、髪を撫でる
「…少し冷えたな。そろそろ帰るか?」
「はい…ありがとうございました」
「すぐ、夕食の準備をしますね♪」
川原から屋敷に戻り、すぐにキッチンに向かおうとする
リリエルを抱き寄せ、キスをする。
「まだ冷えてるな。おいで、リリエル…暖めてやる」
ベッドに横たえ、肌を重ねる
熱に浮かされ、吐息を漏らすリリエルがたまらなく愛しい……
人間界なので、時間の制約は要らない。
それでも、人間として生きるリリエルの生活まで奪う事はできない
必ず夜中には、リリエルの部屋へ帰してやらねばならなかった
分かってはいても、別れの瞬間は毎度辛いものだった
記憶を失ったままの頃なら諦めていられたのに
お互いの心の居場所を確認し合った今はもう……
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