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寄り添う花


リリエルは朝食の後片付け、屋敷中の掃除を済ませ、

副大魔王執務室で公設秘書の仕事を始めていた。


そこへ、イザマーレがやってきた。





 

「閣下♪いかがなさいましたか?」


てっきりウエスターレンと

寝室にいるとばかり思っていたリリエルは

不思議に思いつつ、笑顔で問いかける。


「ちょっといいか?

お前に話しておかなければならないことがある」

イザマーレはリリエルを見つめて言った。


「はい。お仕事ですか?」


「…仕事でもあり、吾輩の妻として、頼みたいことがある」


リリエルは笑顔で見つめ返した。

「かしこまりました。何でもおっしゃってください」


「数週間前に、屋敷にミカエルが来ただろ?

だが、天界の奴らをお前が心底苦手なことは分かっているから

お前に会わせることはしなかった。

暇になったミカエルの相手をしたダイヤが

ミカエルに流されかけて暴走し、人間界に逃げ込んだのは

知っているな?」


「はい」


「ミカエルが本当に話をしたいのは、リリエル、お前なんだ。

お前に会えるなら、魔界に降りてきても構わないとまで

言っていた」


「…!」

驚くリリエルを抱き寄せるイザマーレ。


「ミカエルはやはり、元は吾輩から切り離したものだからな

お前に惹かれるのは、分かるような気がするんだ」


「////閣下…でも私は…」




 

「もちろん、だからと言って

お前を差し出すような真似は吾輩が許さない。」

俯きかけたリリエルの髪を撫でる。


「だが……魔界に降りてきたいとまで言った

奴の気持ちも分かるんだ。お前なら…分かるんじゃないか?

天界の空気を。あの息が詰まりそうな世界に、

ずっと居続けなければならない孤独を…」


「…!たしかに…ミカエル様は

元は閣下の結晶の一部なのですから

本当は魔界にいたいはずですよね」


「そうだ。だがそれでは

吾輩があの時、わざわざミカエルを天使に

生まれ変わらせた意味がなくなるではないか。

それがどんなに孤独な事でも。

この世の安泰のため、魔界の安泰のため、

そして陛下の治世の安泰のために

あいつは天界にいなければならない。」


「…ミカエル様、お辛いでしょうけど、

それが閣下の御意志なんですね?」


「そうだ。」


「とてもよく分かりました。それで、私への頼みとは…?」


「ミカエルの孤独を埋め合わせるため、年に数回程度

お前を天界に派遣したい。もちろん、その時は吾輩が同行し

必ずお前の傍にいる。公設秘書として、外交官のような

仕事と捉えてくれればよい。受けてくれないか?

お前の気持ちを知っていながら、すまない…リリエル……」


「…っ、閣下…私に謝ったりなんかしないでください!

閣下のお役に立てることなら…リリエルは喜んでお受けします」


リリエルは微笑んで、承諾した。




 

「リリエル…大丈夫か?」

イザマーレは優しくリリエルを抱きしめた。


「…いくら吾輩のためでも、我慢するな。

吾輩が、必ずお前を守るから。分かったな?」


リリエルは微笑んで頷いたが

抱きしめた身体はやはり震えていた


「…リリエル…おいで…」


イザマーレはリリエルを落ち着かせるため

プライベートルームに向かった。


全てを把握したウエスターレンは

そのまま部屋の扉を消すべきだと理解した。


どんな時にもダンケルに対する忠誠を守るイザマーレが、

この時ばかりはダンケルへの返事より、

リリエルを優先させたかったイザマーレの想いも。


その時、屋敷にダイヤがやってきたのだ。

「リリエルを対ミカエルの外交官として、天界派遣を要請する」と

記載された契約書を手に…


あまりの間の悪さに、イザマーレはブチ切れ、

それから数日間、プライベートルームの扉は消されたままだった





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