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怖がりの花


やがて終業時刻となった

校長室で新しくPCを繋ぎ直したり、環境を整備したり

慌ただしくしているうちに、あっという間に時間が過ぎていた


就任したばかりだというのに、なぜか引っ切り無しに来客があり

その対応に追われているうち、校長室は花束で溢れ返っていた


「せっかくだから、少し持って帰ろうか…でも、ご迷惑かな…////」


独り言ちながら、ここ数日の事を思い返して

真っ赤になってしまうリリエル


ずっと憧れていた悪魔の傍で働けるようになった初日に、

偶然出会えて、話しかけてもらって…

想像通り、いや、想像してたより、もっともっと

優しくて、素敵で…///////


その後、起こった事が、まだ信じられない。


ずっと恋していた悪魔に、まさか「好きだ」とまで言ってもらえて、

そして…////


キャーーーーーーー(≧∇≦)


い、いや、そんな訳ないじゃない。

私の境遇があまりにもアレだったから

同情してくださっただけよ!そうに決まってる…!

それでもいいの…嬉しい……////


1魔きりの校長室で、

あまりにも激しい環境の変化に胸をときめかせ、

心の中でキャーキャーはしゃいでいた


すぐ隣の副理事長室で、その全てを聞かれているとも知らずに…


その副理事長室では、ウエスターレンが訪れ、

今後のスケジュールの確認を行っていた


「プッ…たいそうな気に入られようだな?

差し詰め、理想の王子様ってとこか?

そしてお前にとっても理想の姫君。そうだろ?

お前があそこまで執着するとは♪」


ニヤッと笑いながら、そのきれいな髪を撫でる




 

「…そうだな。お前との関係を教えても、

いやな顔一つせず、むしろ喜ぶ女なんて、初めてだ。

お前にも、認めてもらえたら嬉しいんだが…」


にっこりと微笑み、見つめ返すイザマーレは、

リリエルの前で見せた顔とは異なり、とても愛くるしい。

この表情を出せるのは、ウエスターレンの前だけだ


「お前が選んだ相手なら、間違いはないだろう。

あの子のことも、俺がまとめて守ってやる。心配いらない。

愛してるぞ、イザマーレ…」


ウエスターレンは自身の赤い口唇を、

イザマーレの黒い口唇にそっと重ねた…



数分後、遠慮がちなノックの音が聞こえ、

扉の向こうからリリエルがそっと顔を覗かせた


「あ、あの…終業のチャイムが鳴って、周りが暗くなってきて…

一魔だけでは、あの…///////」


恥ずかしそうに俯きがちに見上げるリリエルの仕草に、

ウエスターレンも思わず見とれた


だが一寸早く、イザマーレが動く


「構わないよ。おいで、リリエル。寂しかったのか?」


「…すみません、いつも花に戻っていたこの時間は、とても怖くて…」


真っ赤になって震えるリリエルを、イザマーレは優しく抱きしめる


「大丈夫だ。お前が花に戻っても、すぐ女に戻してやる。

吾輩が傍にいるから、安心しろ」


イザマーレのぬくもりにホッとするリリエル


傍で様子を見ていたウエスターレンは、

後ろからリリエルの髪を撫でる


「お前、本当にちっこくて可愛いな。俺の足で跨げそうだよな(笑)」


「…(・∀・)♪ いつか、ウエスターレン様の足の下、

潜ってみたいです(≧∇≦)」


急にウキウキして元気になるリリエル


「やれやれ、寂しがりの姫君にはまだ褒美が足らないようだな。

イザマーレ、しっかりやれよ♪リリエル、また屋敷でな♪」


ウエスターレンはニカッと笑い、守衛業務に戻っていった




 

「…ウエスターレン様とのお時間、お邪魔してしまってすみません…」


恐縮するリリエルに、イザマーレは微笑み、髪を撫でる


「いや、良いのだ。終業時間が過ぎたのに待たせてしまって

すまなかったな。帰ろう。…持って帰るのは、どの花だ?」


「…!…え、あ……、ま、待って待って……」


イザマーレの言葉に驚き、慌てて引き返し

チューリップの花束を抱えて出てきたリリエル


「この子だけ、もう少しで花が咲きそうなので…良いですか?」


「もちろんだ。では行こうか。」


イザマーレに連れられ、一緒に屋敷へ戻ったリリエル


専属の使用魔たちに一斉に出迎えられ、

ランソフから衣装を手渡される


「お帰りなさいませ、リリエル様。

昨日、イザマーレ様から仰せつかっておりました

ご衣裳でございます。

お気に召していただけたら良いのですが。

それから、当面のご衣裳も必要でしょう。

お部屋にカタログを用意させましたので

何なりとご注文くださいませ」


「…!ありがとうございます、えっと…貴方は…」


「ランソフと申します。以後、お見知りおきを♪」


柔和な笑顔を見せるランソフの手をそっと握るリリエル


「ランソフさんね。今着ているこの服も、

ランソフさんがクリーニングしてくださったと聞きました。

とても気持ちがよくて…丁寧なお仕事、ありがとうございます。

分からないことばかりなので、いろいろ教えてくださいね」




 

リリエルとランソフのやり取りを、

静かに見守っていたイザマーレは

屋敷内の空気が一変したことを感じ取っていた


実は、イザマーレたちが戻るまでの間、屋敷内は殺伐としていた


いきなりどこの馬の骨とも分からない、身元不明な女を連れ帰り

そのまま居座らせたのだから当然だ


魔界一の魔力を誇るイザマーレ族の長。


私利私欲を求める魔界中の悪魔が、その正室の座を虎視眈々と狙い

駆け引きし合う故に結果的に何もできず、手をこまねいていた間に

イザマーレ自ら、その相手を決めてしまったのだ


たった、週末の2日間で…


その余波がどれだけの影響を及ぼすか、気にかけてはいたのだが

リリエルの前では、どんな毒気も抜かれてしまう

そして、新たな心配の種が付きまとう


リリエルの持ち帰った花束を見て、

気づかれないようため息をつくイザマーレ


(お前に信頼されるまで、もう少し時間をかけるつもりだったが

陛下への報告も、急いだ方が良さそうだな…)







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事件

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