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暴走の果てに


それにしても…

当たり前だが、王宮は広い。


リリエルとの時間を終え、

ダイヤの命に何の影響もなく人間界に戻すためには

そう悠長に構えてもいられない


だが、正式なルートを辿ったところで

王宮内に仕える使用魔たちは非難めいた視線を浴びせてくるし

そんなものは受け流したとしても、手間と時間が掛かりすぎる


厄介事は手っ取り早く済ませたい

吾輩にもそのくらいの狡さはある


魔法陣で直接、王室に向かった


「陛下、ダイヤを見て頂き有難うございます。迎えに来ました。

ダイヤ任務だ。来い。」


「少し待て!…丁度良いダイヤの話を聞いていけ。

それからでも遅くはないはずだよな?イザマーレ」


いつもと違うダンケルの様子を察知した。




 

(…やれやれ、今度は何なんだ、いったい…)


ため息をつきたい本音を堪え、無表情で待つ

己を暴走させないための苦肉の策だ


「ダイヤもう一度初めから言ってごらん?」

冷徹な大魔王が、ダイヤには甘い声で囁く様子は

僅かながら、微笑ましくもある。


だが、次のダイヤの言葉に驚愕し、慌てた。


「…御意…貴方様に寄り添い生涯を共に過ごします…

閣下…申し訳ありません…もう雑に扱われるのは限界です…

忠誠契約を解約してください…」


「ちょっと待て!ダイヤ。陛下、一度ダイヤと話を…」

イザマーレの言葉を、ダンケルが遮る。



(…死にたいのか?もう知らん!こんな奴ら…)


堪忍袋の緒が切れかけ、そのまま王室を後にする。


だが…やはり気がかりでベルデの元に向かう

本当は、ダイヤを一時的に人間界に戻す手段を

陛下が怠らないよう、どうにか助言してほしいと

伝えてやりたかったんだが…


ベルデの話を聞いているうちに、何もかもが空しくなった


この時、吾輩より怒り心頭になったのは、ウエスターレンだったな。




 

予想に反して、一魔で屋敷に戻ったイザマーレに驚いた

「おかえり…あれ?ダイヤはどうした?」



「誰だそいつ。ダイヤ?吾輩は知らんな、そんな女は」


イラっとしているイザマーレを抱きしめてやる

具体的な事を話さず、プンスカしている時ほど

本当は一番寂しい思いをしている。


昔から、お前はいつもそうだな。

こんな時、リリエルが傍にいてやれたらな……


仕方のないことを嘆いても始まらない。

こんな時こそ、俺様の出番だな。


「…イザマーレちょっと出掛けて来る。1魔で大丈夫か?」

「…大丈夫だ。」

俯くイザマーレに優しく口唇を合わせ俺はダンケルの元へ向かった


そこで、全ての事を把握する。


嫁にするだと?はぁ?


しかも、扱い雑だの

孤独にさせ過ぎだのと……


お前ら、かつてLilyelやイザマーレにどういう仕打ちをしたのか

分かってて言ってるのか?




 

「…悪魔の契約したけど生身の人間だよ?

傷付いた心は、魔力で消し去る事なんて簡単には出来ない

そんな時に、ダンケルに大切にするから嫁になれって言われたら

大切にしてくれる方に行くよ普通なら…」


このベルデの言葉には、怒りが湧きあがり

言葉を発することすら出来なかった


同じ言葉をお前らに返してやりたい



どんな魔力でも、どんな奇蹟でも消せないほどの痛みを

イザマーレだけに背負わせ、

何食わぬ顔で傷口に塩を塗り続ける


Lilyelという生身の女の犠牲、

その決断を下したお前らが言う言葉か!!



「……話はわかった。取り敢えず今回は帰るわ…」

ウエスターレンはベルデに言い残して魔宮殿を後にした


一言でも口に出そうものなら、自我を抑えきれそうになかった

イザマーレの心の叫びがよく分かる。


どうせ、同じ調子でイザマーレにも言い放ったに違いない



……実はこの時、

ウエスターレンの声にできないほどの怒りを

感じ取っていたベルデ


(……どうしてだろう、僕はいつも間違えてしまう……



こんな時、いつも思い出すんだ。彼女の…あの視線を…

いつになったら、僕は、許してもらえるのだろうか……)



 

ベルデが心の奥にそっと留めた苦悩は知らずに

俺は屋敷に戻り、イザマーレを抱きしめた


「イザマーレ、おいで…待たせたな」

「///大丈夫だと言ってるのに…」


「忘れるなよ、俺はいつでもお前の味方だ。

今度は何とか二日間、休暇をもぎ取ってやるからな♪」


ニヤッと笑うウエスターレンに、吾輩もやっと元気になった


「…ということは、それ以上に激務になるわけだな?

こうしてはいられない、仕事に戻るぞ!ウエスターレン♪」



モヤっとした気持ちが晴れたら、ダイヤという足枷が外れ、

無用に恨まれながら人間界に戻すという義務もなくなり

ただリリエルとの時間を捻出するためだけに、集中するだけだ


これまで以上に張り切り、雑多な職務を捌きまくるイザマーレだった


そうしてもぎ取った「次の二日間」が、運命の日になるとは……



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