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紅蓮の告白


文化局の森のお茶会を終え、屋敷に戻る道すがら


「ところでウエスターレン。あれはどういう事だ?

お前はラァードルが人間界に居る間の事も知っていたのか?」


「ん?ああ、そうだな…それについては、こんな歩きながらではなく

しっかりと話したい。出来れば、屋敷ではなく…」

「!!お、おい…っ///////」

そう言いながら、面食らうイザマーレを抱き上げ瞬間移動する


…………


「脅かすな!!そして、この場所に来るのに、あんな抱き方があるか!!」

辿り着いた先で、顔を真っ赤にして怒るイザマーレ


「(笑)すまないな。だが、これから話をする事でお前が少しでも

俺の気持ちを疑う事のないようにと思ってな」

ウエスターレンは笑いながら、イザマーレの髪を撫で落ち着かせる


「ここ、俺とお前、そしてリリエルの

”始まりの場所”を選んだのも理由がある。」


「……」


「まずはイザマーレ。謝らせてくれ。今更のことだが…かつて

お前の大事な姫を守り切れなかった俺の事を…」

「!!」


「ダンケルやベルデたちの目論見、

そしてあいつ自身の願いだったとはいえ

屋敷のあかずの扉から天界に行くあいつを最後に見届けたのは俺だ」


「…ウエスターレン、すまなかったな。

あいつを愛しているなら、なおさら辛かっただろ。」

深く見つめるイザマーレを、ウエスターレンは強く抱きしめる


「だから!!お前は、そう言うに決まってるから…

愛したくなるじゃないか!!

だがまだ、この話には続きがある。聞いてくれ」




 

「お前は自分の部屋に居たあいつの花の種を、今でも大事に保管しているな。

それは同じように大切に思っていた俺も同じだ。

リリエルが天界に向かってからも、ずっと片時も離さず持ち続けていた。

お前が、あいつを追いかけて最初に人間界へ行った時までな。

そして、知ったんだ。お前より先に、リリエルの出生の秘密を…」


「…!そうか。お前の能力なら容易いことだろうな」


「人間界に向かうお前と、人間として生まれ変わったリリエルのことを

見守り続けたのは俺だけじゃない。それこそ、あいつが処刑された瞬間も、

悲痛な思いで見つめていた存在があった。それが誰かは…もう分かるな?」


「…雷帝妃殿か」


「そうだ。だがそれだけではない。一緒に居た雷神帝はもちろん、

この世の全ての意思が怒りで満ち溢れたんだ。さすがはお前の姫君だな。

あいつに向けられた刃は、瞬時に全世界の空気を塗り替えた」


「……リリエルの無償の愛だ。不思議ではないな」


「それでな。誰かさんの思惑が実り、

無事にリリエルが人間として生まれ変わった事を

殊更に喜んだ存在がいたんだ。誰だと思う?」


「ウエスターレン!意地悪するな。さっさと教えろ!」

プンスカし始めるイザマーレが可愛くなるウエスターレン


「リリエルの実母である雷帝妃の親友、風帝妃さ♪」


「!!!…マジか」

率直に驚くしかないイザマーレ


「それでな。リリエルが人間として無事に生き抜けるよう

願いを込めて風帝妃から託されたんだ。彼女自身の花の種を。」




 

「! まさか、それも百合の花だっていうのか?」


「(笑)そう思いたくなるよな。だが、残念ながらそうではない。

風帝妃は紫蘭の化身だ。」


「ということは…」


「そうだ。スプネリアは紫蘭の化身。風帝妃の娘だ。

雷神帝から、お前を見守る傍らでいいからと、

スプネリアの保護も頼まれてな。ずっと見守り続けていた」


「…ウエスターレン。まだ何か隠しているな。

わざわざこの場所に来た理由があるはずだ」


「お前なら分かるだろ?

花は、種を蒔くだけで女になるわけではない

リリはお前の涙で。裕子はダイヤの意思で。何かしら

近くに居た誰かの影響を受ける必要がある」


「そうだな。」


「さっき、俺はお前に謝ったが、

それはリリエルを深く傷つけたことに対してだ。

いつか、お前は必ず戻ってくる。そしてお前なら、

必ずリリエルを取り戻すため、動くに違いない。

そう確信していた。そして事実、そうなったな?」


「ウエスターレン、それは吾輩だけの力ではない。

お前も、ずっと一緒だったじゃないか」


「まあ、そうなんだが。だが改めて思い返してみろ。

お前たちの抱えていた心の傷に光を当てた奴が、俺以外にいたか?」


「…いや…」


「俺はお前たちの抱える孤独すら、許せなかった。

今、ラァードルとスプネリアを見守ることで、何が起きている?」




 

「…リリエルがようやく、涙を流せるようになったな……!お前が?」


「そうだ。リリエルがめでたく人間として生まれ変われたならば

俺が守り続けたあいつの種に、もはや何の意味もない。

イザマーレ。何度も言うが、俺はリリエルへの思いは全て

あかずの扉に向かうあいつに預けたんだ。

そこで終わっていると言っただろ?」


「…それで?」

言いたい事は山ほどあったが、真相が気になり先を促すイザマーレ


「風帝妃の花の種を蒔いた所に、俺の炎で燃やした

リリエルの種の粉を蒔いた。さすがに燃やした粉に

あいつのオーラは残っていないだろう。だがそれでも驚くほど、

リリエルの性格によく似た女になったもんだな」


「…それはそうだろう。ダイヤに残ったリリエルの記憶の幻影にすら

幾度も惑わされたくらいだ。」


「イザマーレ。俺も、お前が100パーセントの信用を勝ち取った時の

あいつの心からの笑顔が見たい。だから、この話は、

まだリリエルには内緒な。」


「分かった。頼まれるまでもない。ウエスターレン。お前と一緒にな…」


ついに堪えきれなくなった涙を流しながら

ウエスターレンの首に腕を回すイザマーレ

そんなイザマーレをウエスターレンも強く抱きしめた…




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