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紅蓮の逃亡

ダンケルはウエスターレンを拘束していた部屋に移動した。

逃げられないようウエスターレンに鎖を繋げていたのが切れて床に無惨に置かれている。

魔力で結界まで貼っていたのに相当な力で切った後がある。

ウエスターレン自身そんなに魔力が戻っていないはず...

鎖を持ち上げ無理に引っ張り擦れて怪我をしたのであろう...血が付いていた。

鎖を握り締め愕然と立ち尽くしていた


一方ベルデは、僅かな気配を感じ取り、ウエスターレンの元へ移動していた


「…ウエスターレン!」

フラフラに歩いているウエスターレンを見付け腕を掴んだ。


「…離せ…ベルデ…」


「何処に行くんだ!そんなフラフラで!」

落ち着かせるように語りかけ腕を離した


「…ここにはもう…居れない…イザマーレを傷付けた…

俺にはあいつに会う資格なんかない…」


「…何があったの?」


「イザマーレ目を覚ましたようだな…あいつ…泣いてたろ?

ダンケルから近付くなとまで伝達が来て…

イザマーレから俺に会いたいと言霊が伝わってきた…会って話がしたいと…」


ウエスターレンは壁に寄りかかり座ってうなだれていた


「……」

ベルデは口を挟むことなくウエスターレンの横に座った


「俺が…人間と活動したいと言った事、

それは、あいつにとっては俺と別れてくれと言われたようなもんだろ…。

そんな誤解で、ひどく傷つけた…」




 

「それは……仕方なかったんだ、お前のせいじゃない。

記憶を奪われていたんだから…」


「そんなことは!!なんの言い訳にもならない。

あいつへの想いを記憶なんかに操られた自分が許せないんだ!

こんな情けない俺が、あいつに愛される資格なんかないだろ」

寂しい顔になり煙草を取り出した。


ベルデはため息をついた

「止めても無駄みたいだね…」


「…あぁ…決めた事だしな…」


「分かった。もう止めはしないよ。ただし、僕には時々連絡入れて。

それが条件。あと魔界に何かあったら戻る事も。

約束出来なければ今すぐにダンケルの所に連れ戻す。」


ウエスターレンは頷いて「約束する…」と呟いた。


ベルデはウエスターレンに少しでも体力を戻す魔力をかけ立ち上がった。

体力が戻ったウエスターレンも立ち上がり歩き出した。


「…有難うな…ベルデ…イザマーレの事、頼んだぞ…」

ウエスターレンはその場から消え人間界へ行った


手を振り払い、消えて行くウエスターレンを

見送る事しか出来なかったベルデ

最後まで、言いたくても言えなかった言葉を胸に抱きながら…


(でもね、ウエスターレン…僕が知っている君たちは

そんなことで壊れるような絆ではなかったはずだ。

君たちは、きっと必ずまた、僕に奇蹟を見せてくれるはず。

そのために、力を尽くすよ…)




 

魔術でどうにか一命を取り留め

寝台に横たわるイザマーレの寝顔を見つめるベルデの脳裏に

在りし日の光景が次々に浮かび上がるのだ


見るからに痛々しい身体の傷以上に

心に何本もの矢を射抜かれ、血まみれなのだろう


『…大丈夫。きっとウエスターレンは戻って来るよ。

あいつは今、君に会いに来るための道しるべを失っただけなんだ。

君が光を失わなければ、あいつは必ず君を見つけるはず。

そうだろう?だから君は笑っていなければならない。

この世のすべてに愛されている君のことだ。

そんなに難しいことじゃないだろ?今はこのまま身体休めて…』


手を翳し、ヒーリングを施すベルデの声に反応し

涙を流しながら、あの頃のような幼子の姿に戻って行くイザマーレ








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