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邸宅の日常


朝7時 


魔界の高級住宅地にある邸宅

主である水の悪魔は、天然パーマの豊かな髪をキュッと縛り

吸水性の良いジャージ姿で敷地内の庭をジョギングしている


8時を回ろうとしても戻らない主に業を煮やして

妻のバナトラが呼びかける


「バサラ!いつまで走ってんの!早くしないと、また遅れるわよ!!」


「!いけねっ つい時計見るの忘れてた💦バナトラ、ありがとね」

すぐに戻り、シャワールームに向かう

美意識の異常なまでに高いバサラは、優雅に泡風呂に浸かり

薔薇の匂いを振り撒きながらリビングに出てくる


毎度の事なので見慣れたバナトラは、使用魔に用意された朝食を

きっちりと食べ、身支度を綺麗に整え、間もなく出勤タイムだ。


「ふう~サッパリした(*´艸`*) あれ、バナトラ。もう行くのかい?」

「うん。バサラも今日は急がないと!!軍事演習でしょ?

遅刻したら閣下に叱られるわよ!!…じゃあね…っ」


そのまま扉を開けて出て行こうとする彼女の腕を引き寄せて抱きしめる


「ちょっと…///////」


「…行っておいで。俺の可愛い子猫ちゃん♪気を付けてね」

甘く囁いて口づけを交わす


「///////…行ってきます…」

バナトラは真っ赤になりながら、小さく呟いて邸宅を後にする



 

朝10時


王都と高級住宅地の間にある市場

リリエルはいつものように買い物に訪れていた


今日は軍事演習の為、屋敷にいるウエスターレンが、

イザマーレとリリエルの動向をいつも以上に注視しながら

強固に保護している


肉や魚、色とりどりの旬な野菜、

それから、イザマーレが好きなお酒など

様々な店を覗きながら買い込んでいく


「副大魔王妃様、いらっしゃいませ!!

今日は、こいつがおススメだよ!!」


八百屋の店主に呼び止められ、

リリエルは微笑んで新鮮な野菜を眺めている


「そういや、今日は自警団のあいつ、軍事演習に参加するんだっつって

不在です。ですが、安心してください!!俺たちがお妃様の事は絶対に

お守りしますんで!!」


レタス、パプリカ、ズッキーニ、かぼちゃ、人参…

注文を受けた食材を魔球体に入れて屋敷に送り届けながら、

にっこり笑顔になる店主


「そうでしたか。頑張ってらっしゃるのね♪どうもありがとう…」

リリエルも微笑んで店を立ち去る


(…ふふっ バサラ様の軍に入隊できて、

はりきってらっしゃるみたいね☆彡)


屋敷に戻ったリリエルは、

早速、買い込んだ食材の下ごしらえを始める


間もなく11時…


(お昼時になったら、一度戻ってこられるはず…

それまで、もう少し仕事を進めておこうかな…)




 

執務室に戻り、公設秘書の仕事を捌いていく

数刻後、空気が振動し、後ろから抱きしめられる


「リリエル、ただいま」

「あ♪閣下、おかえりなさいませ☆彡」


現れたイザマーレに抱きついて、微笑むリリエル

一緒にプライベートルームに行き、小ぶりのキッチンで

お茶を淹れ、軽めの昼食を用意する


「軍事演習、お疲れさまでした。」


「ありがとう。このまま午後も演習の予定だったが、

急遽取りやめになった。バサラ軍で負傷した悪魔がいてな。

リリエル、お前の良く知るあいつだ」


「! …え、いつも市場にいる、あの方ですか?」


「そうだ。状態は心配するほどではないが、魔界病院に運ばせた。

…気になるなら、一緒に連れて行ってやるぞ?」


「分かりました!それなら、バナトラ様も大変だったでしょうし

様子を見に行きたいです!」


すぐさまPCの電源を落とし、出かける準備をするリリエル

食事を済ませたイザマーレの髪に乗せられ、

一緒に魔界病院へ向かう




 

魔界の森、文化局に存在する魔界病院…

入り口からは、実際の部屋数とベッド数がどれだけあるのか

全く分からない。



よく大怪我をする最高魔たちが運び込まれる緊急処置室

治療を終えた後、予後観察の為に一時入院させる病室

病室に3日以上入院する患者は滅多にいない

あくまでも応急処置としての緊急入院であり、

その後は患者自身の魔力で回復させていくものなのだ


或いは、よほどの難病に罹り、

院長である角の生えた悪魔の研究材料として、

入り口からは見えない謎の実験部屋に運び込まれたまま

存在自体がなかった事になってしまう悪魔も少なくないとか…


噂の真贋はともかく、

常に明かりが灯る入口付近のナースセンターで

休憩がてら、裕子と一緒におやつを食べていたバナトラ



緊急処置室で、昼前に運び込まれた患者を

淡々とヒーリング治療していくベルデ


無数の擦り傷と打撲、右肩がはずれかけていたが

ベルデの魔力で簡単に処置が終わる


「…これでよし。もう動いて大丈夫だよ。

あと1時間くらい安静にしたら、帰っていいからね」


ベルデはのんびりと言いながら、部下に迅速に指示を出し

医局に戻って行く


患者は局員に誘導され、病室のベッドに横たわる


バナトラが患者の元へ行き、バイタルチェックをしながら

カルテに書き込んで行く。



 

「少しの時間ですが、何かあったら呼んでください。

あと、これ…いつも患者の皆にお渡ししているんです。

飾っても宜しいですか?」


「ん…ああ、すんませんね…お世話になりますよ」

(…ちぇっ 頑張ってみても、所詮はこんなザマか…)


枕元に一輪の薔薇を飾るバナトラに、

患者は気怠そうではあるが、低姿勢で言葉を返す


ちょうどバナトラが診察室を出た時、

イザマーレとリリエルが現れた


「あれ、リリエルちゃん♪どうしたの?」


「バナトラ様、お疲れ様です。うん…あのね、

知り合いの方が怪我をして入院されたと聞いて、

閣下に連れて来てもらったの」


「ああ、ここの患者さんね。

えっ、リリエルちゃんのお知り合いだったの?」


バナトラはリリエルの言葉に少し驚いて聞き返す


「うん…昔からの顔なじみなの。参謀の軍に入隊しているのよ。

今日の軍事演習でお怪我なさったって…。

お見舞いに会わせてもらっても良いかしら?」


「!! えっ そうだったんだ。

それで閣下もいらっしゃったのね。

どうぞ、治療は終えて、今は病室にいますから」


バナトラに促され、リリエルは病室に入っていく




 

「失礼します」

「ん、は~い…って!!お妃様…💦」

何気なく返事をしながら振り向いた患者は驚き、飛び起きる


「お怪我をなさったって聞いたの。大変でしたね。

治療は終わってるみたいだから、痛みも徐々に引いていくでしょうけど

早くお元気になってくださいね。あとこれ…

お見舞いの品です。どうぞ♪ 」

リリエルはそう言って、魔力で取り出した乳酸菌飲料を患者に渡す


「えっ…💦こりゃ、いつもすんません…

てめえの実力も顧みず、無茶をしてご迷惑をお掛けしました💦

まさかお妃様に、そこまで気にかけていただけるなんて💦💦

ありがとうございます!!これに懲りず、頑張りますよ♪

また市場でお待ちしてますからね♪♪」


リリエルの心遣いに感謝していくうち

心に渦巻いていた闇も消えていき、笑顔になる下っ端悪魔


リリエルの様子を窺いつつ、

イザマーレはバナトラに事の経緯を説明をしていた


そこへ、当事者であり現場の監督責任者であるバサラが

予想外に早く終わった仕事に喜び、花束を持って颯爽と現れる


「やあバナトラ♪迎えに来たよ~…って、あれ?閣下~💕」


思いがけず出会えたイザマーレの姿に喜び、

嬉しそうな笑顔を見せるバサラ。

今にも抱きついて、キスしそうな勢いだ。


「こんな所でどうしたの?ベルデに用事?」


「…バサラ、貴方ねえ…」

バナトラは呆れ顔でため息をつく



 

「なんで現場に居た貴方が何も気にせずいるのよ。

少しは閣下やリリエルちゃんを見習ったらどうなの?」


「…へっ?」

まさかのバナトラからの辛辣な切り返しに戸惑うバサラ


「バサラ。先程の演習で負傷した隊員がいただろ。

すぐにここへ運び込んで、今はすでに治療も終わっているが…」


「!ああ、さっきのあいつね。

うん、敵の予想外の動きに対して誰もが逃げ惑う中、

戦術になかった動きをして負傷しちゃったんだよね」


イザマーレの言葉に、軍事演習での出来事を思い出したバサラ


「…そもそも、戦術の中に『予想外』がある時点で

欠陥だらけという事だ。今回の戦術は、

たしかお前が構築したのではなかったか?バサラ参謀よ…」


「!! そ、そうだった…💦

でも珍しいね。軍に負傷者が出たからって

総司令官の副大魔王自らが病院まで駆けつけるなんて…」


チクりと鋭く指摘するイザマーレにヒヤッとしながら、訊ねるバサラ


「ああ、たまたま、リリエルが親しくしている奴だったからな。

そうでなければ、吾輩が言霊でコントロールしてやったんだが、

あいつに任せた方が良いと思ってな。」


2魔のやり取りを聞きながら、状況を察したバナトラは

バサラが抱えていた花束を取り上げ、病室に入り

患者の枕元の薔薇と一緒に飾る


「軍事局参謀からのお見舞いです。お受け取り下さい」


「えっ…すんません💦わざわざ…ありがとうございました!!」

バナトラの言葉に驚愕して、ますます恐縮する下っ端悪魔




 

「クスクス…良かったですね♪でもまずは、

身体を労わって休んでくださいね。

これからもご活躍を楽しみにしてますから💕」


リリエルはにっこり微笑んで、悪魔の手を優しく握る

傍に居たイザマーレもリリエルの髪を撫でながら

静かに語りかける


「まあ、想定外の状況下でも、

怯まずに敵方に向かっていったからこその負傷だ。

前向きに頑張っている証拠だな。悪魔として、望ましい姿だ。」


「…!! ふっ副大魔王様…😍😍😍」


まさかの副大魔王、そして悪魔軍の総司令官である

イザマーレの言葉にしきりに恐縮して震え上がり、

そしてイザマーレに対する忠誠心が

留まることなく高まり続ける下っ端悪魔


「ふふっ 良かった…では、あまり長居してはいけませんね。

私たちはこれで…失礼しますね」


にこにこ微笑むリリエルを髪に座らせ、

イザマーレはその場を立ち去った



この時のイザマーレたちのやり取りを、医局にいながら

魔水晶で覗いていたベルデは、ほっとしながらのんびりと呟く


「ふう、良かった…いくら下っ端の低級悪魔でも

無下に扱えば内側に潜む敵になりかねないからね…」


事が大きくなる前にイザマーレに依頼しようと

思っていたところだったのだ


「…やっぱり、リリエルちゃんって凄いな…」


かつての王室復旧工事の時の事を思い返し、

ため息をつくベルデ



 

さて、イザマーレとリリエル、さらにバナトラの機転により

些細な波紋も消え失せ、穏やかさを取り戻した魔界の森


迎えに来たバサラと一緒に、帰路につくバナトラ


「まあ、出来損ないの戦略だからこそ、現場は

実力が求められるものよね。

完璧すぎる戦略で、マニュアル的な動きにしか

対応できなくなるのも、まずいのかも…

バサラ、貴方のおかげで、彼も成長できたんだって

閣下が仰ってたよ。…さすが、軍事局参謀ね」


「!!…バナトラ…///////もう、そんな可愛い事言って~」



てっきり叱られるとばかり思って凹んでいたバサラは、

バナトラの言葉に驚いて、ニカっと笑う


「…今日は、少し奮発して御馳走にしようか。」

「いいね~」


そう言いながら、邸宅に向けて目玉蝙蝠を飛ばす…





Fin.









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